この記事では、ノイズ対策の3つの基本手法と具体的な対策手段について解説します。
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ノイズ対策の概念
ノイズ対策が必要となる場合には、必ずノイズの「加害者」と「被害者」が存在します。
このうちEMC規格においては、加害者のノイズ性能を「エミッション規格」、被害者のノイズ耐量を「イミュニティ規格」で規定しており、ノイズ障害が起こりづらいように限度値間に十分なマージンを持たせています。
なお、この加害者と被害者の関係性は、異なる電子機器間で発生することもあれば、同一の電子機器内の異なる回路間で発生することもあり、同一の電子機器内で発生するノイズ障害のことを「自家中毒」とも呼びます。
ノイズ対策の考え方
ノイズ障害においては、加害者と被害者のそれぞれでノイズ対策が必要となりますが、ノイズ対策における考え方については、双方とも同じ以下の3つの対策手法が適用されます。
- グランド対策
- シールド対策
- フィルタ対策
グランド対策
ここではノイズ障害を発生させる加害者側の観点で、グランド対策について見ていきます。
グランド対策を一言で表すと「基準電位の安定化」になります。基準電位は、電子機器内部の回路の基準となる電位のことで、多くの場合は「グランド」として表されるものです。
このうちノイズ対策において重要となるのは「シグナルグランド」と「フレームグランド」です。いずれのグランドとも、グランド間に電位差が発生すると、それがコモンモードノイズとなって電子機器内部、あるいは他の電子機器に対して障害を与える原因となります。
そのためノイズ対策にあたっては、何よりもまず「グランド対策」を行って、基準電位が変動しないように対策する必要があります。
シグナルグランドの対策
シグナルグランドでは、リターン電流による電位変動がノイズ障害の主な原因となります。
このリターン電流による電位変動は、回路の種類(電源回路、アナログ回路、デジタル回路など)に関わらず全ての回路において重要となるもので、最短のリターン経路を確保することが最小のインダクタンスを生み、それが結果として電位変動(ノイズ)の低減へとつながります。
そのため、特にノイズ源となるクリティカルな配線(クロックライン、バスライン、高dv/dtラインなど)に対しては、スリットやビアがリターン電流の妨げにならないように注意する必要があります。
ちなみに、このリターン電流による電位変動で発生したノイズは、いわゆるコモンモードノイズと呼ばれるもので、コモンモードノイズはディファンシャルモード(ノーマルモード)ノイズと比較して放射効率が高いため、微小レベルであっても重大なノイズ障害を発生させる可能性があります。
フレームグランド対策
フレームグランドでは、フレーム間で発生する電位差がノイズ障害の原因となります。
多くの金属筐体は、1枚の金属板で構成されることはほとんど無く、複数の金属板を組み合わせて1つの筐体へと加工されています。
この複数の金属板は多くの場合、ビスやリベットを使って相互に固定されますが、このときに電気的な接続(導電性)の観点で考えると、接点が少ないために接触抵抗が大きかったり、あるいは塗装されていることで絶縁されていることもあります。
このような場合においては、基板からの寄生容量によって金属板にノイズ電圧が誘起され、金属板間にインピーダンスが存在するために、それぞれの金属板間の電位差がコモンモードノイズとなって金属板の隙間から放射されてしまいます。
そのためフレームグランドにおいては、金属板間で電位差を生じないように低いインピーダンスで金属板同士を接続することが何よりも重要となり、そのためのノイズ対策の部材としてEMIガスケットが使用されます。
グランド対策の考え方
グランド対策は、ノイズ障害の根本的な原因となるコモンモードノイズを抑制する働きを持つため、ノイズ対策の中でも最も重要な役割を果たします。
ここで紹介した原因以外にも、プリント基板内においては電源層とグランド層(シグナルグランド)によるプレーン共振や、半導体ICの同時スイッチングノイズ、さらにはシグナルグランドとシグナルグランド間、シグナルグランドとフレームグランド間の電気的な接続(λ/20規則)もグランド対策に大きな影響を与えます。
いずれも一筋縄に対策できることは少ないですが、ノイズ障害の根本的な原因となっているため、ノイズ対策にあたっては何よりもまずこれらグランド対策を重点的に行う必要があります。
ただしこのグランド対策に関しては、プリント基板や筐体の設計段階においては非常に有効な手段となりますが、エミッションの試験段階や製品出荷後のノイズトラブル段階においては打てる手立てがほとんどありません。
そのためグランド対策では、設計段階(上流工程)で如何にノイズ要因を取り除くことができるかが重要になります。
フィルタ対策
フィルタ対策は、同じライン(伝送線路、ケーブルなど)に重畳する信号とノイズの周波数成分の違いを利用して、ノイズだけを減衰させる対策方法になります。
フィルタには周波数特性に応じて4つの種類が存在します。
ノイズ対策においては、ほとんどの場合「ローパスフィルタ」が利用されており、比較的低い周波数の信号(電源電流、アナログ信号、デジタル信号)を透過させつつ、周波数の高いノイズ成分だけを減衰させてノイズ障害を抑制します。
電源ライン
電源ラインにおいては、直流電流や商用電源が信号として作用し、それ以上の周波数成分はノイズとして定義されます。
このうち直流電流に対しては、多くの電子機器においてはパスコンを使ってフィルタ対策が行われています。
パスコンは、コンデンサの周波数特性(周波数に比例してインピーダンスが低下)を利用したフィルタ対策で、高周波のノイズ成分をバイパスする働きを持ちます。多くの場合は、複数の静電容量の異なるコンデンサを並列に接続して、広い周波数範囲で低いインピーダンスとなるように定数を選定します。
一方で商用電源に対しては、XコンデンサとYコンデンサにコモンモードチョークコイルを組み合わせてフィルタ対策を行います。
ここではノーマルモードノイズとコモンモードノイズによって対策方法が変わってきますが、いずれのローパスフィルタを構成することでノイズを抑制しています。
また、このコンデンサとチョークコイルが組み合わさってパッケージングされたものがノイズフィルタです。ノイズフィルタにおいては、ノイズ障害を抑制することはもとより、エミッション試験に合格するために定数がチューニングされることが多いです。
信号ライン
信号ラインにおいては、アナログ信号やデジタル信号に重畳する歪みやリンギングがノイズとして定義されます。差動信号の場合には、信号間のスキュー(遅延時間のばらつき)もノイズになります。
信号ラインでは、信号の周波数成分とノイズの周波数成分が比較的近いことが多く、場合によっては重複していることもあります。そのため、ノイズの減衰量をただ単に大きくすれば良いわけではなく、信号に影響を与えない範囲でノイズを減衰させることが重要になります。
具体的な対策方法としては、RCフィルタ、アクティブフィルタ、LCフィルタが使用されます。
必ずしも正しいと言えませんが、これらのフィルタは以下のようなイメージで用途によって使い分けがなされています。
- 信号とノイズの周波数が離れている → RCフィルタ
- 信号とノイズの周波数が近い → アクティブフィルタ
- 信号の周波数が高い → LCフィルタ
RCフィルタ
RCフィルタは、フィルタの減衰傾度が非常に緩やかであるため、信号とノイズの周波数が離れている場合に有効で、チャタリングの防止や低速のアナログ信号に対して使用されることが多いです。
アクティブフィルタ
アクティブフィルタは、フィルタの次数によって減衰傾度を調整できるため、信号とノイズの周波数が近い場合に有効とされており、小型で高い減衰量を持つフィルタを設計することができます。ただし使用するデバイス(オペアンプ)によって周波数帯域が制限されるため、比較的周波数の低い信号(~100kHz)にしか適用できません。
LCフィルタ
LCフィルタも、フィルタの次数によって減衰傾度を調整できるため、信号とノイズの周波数が近い場合に有効です。加えて、インダクタンスと静電容量の組み合わせによってカットオフ周波数も調整できるため、アクティブフィルタと比較して高い周波数まで適用することができます。一方で低い周波数に対しては、定数を大きくすることでコイルやコンデンサのサイズが大きくなるため、あまり使用されません。
またフェライトコアやコモンモードチョークコイルによるノイズ対策も、LCフィルタによる対策として分類されますが、これらのノイズ対策部品を使用するにあたっては、周波数特性だけでなくノイズの伝導モードも考慮する必要があります。
フェライトコアはケーブルへ取り付けますが、取り付け方によってノーマルモードノイズとコモンモードノイズのどちらノイズを減衰させるかを選択することができます。このうち多くの場合は、放射ノイズの原因となるコモンモードノイズに対して対策を行います。
コモンモードチョークコイルは、その名の通りコモンモードノイズを減衰する働きを持ちますが、信号(ディファレンシャルモード)に対しては影響を与えてはいけないため、ミックスドモードSパラメータを使って伝導モードごとにフィルタの減衰傾度や減衰量を確認する必要があります。
フィルタ対策の考え方
フィルタ対策は、ノイズ障害の根本的な原因を抑制する働きは持ちませんが、外部への漏洩するノイズを大幅に低減できるため、ノイズ対策の手法としては非常に有用です。
また対策手段としても、設計段階で使用できるもの(パスコン、コモンモードチョークコイル、フィルタ回路など)だけでなく、エミッション試験やノイズトラブルの段階でも使用できるノイズ対策部品(ノイズフィルタやフェライトコアなど)が揃っているため、様々な場面で実用的な手段を検討することができます。
つまり、フィルタ対策においてはノイズの性質(周波数、伝導モードなど)を的確に見極めて、効率よくノイズだけを低減することが重要となります。
シールド対策
シールド対策は、ノイズとして放射されている電磁波を特定の範囲に閉じ込めるノイズ対策の手法で、トイレの蓋に例えられて、「臭いもの(ノイズが出てそうなもの)には蓋(シールド)しろ」と言われることもあります。
電磁波シールドの原理については以下の記事で解説しているためここでは言及しませんが、ノイズが放射している箇所を金属導体で覆うことで、外部へ放射する電磁波を抑制します。
このシールド対策は、主に4つの箇所で行われます。
- 部品(デバイス)
- プリント基板
- 電子機器全体
- ケーブル
部品(デバイス)
部品レベルでのシールド対策は、主に半導体ICに対する電磁波シールドになります。
半導体ICは電子機器内部におけるノイズ発生源となっており、そこからの放射ノイズを抑制するためにシールドキャップが使用されます。
半導体ICでは、アンテナとなる導体(ボンディングワイヤ)の線長が非常に短いため、低周波のノイズはほとんど放射されませんが、波長が短い高い周波数(数100MHz~)のノイズは導体から直接ノイズが放射されます。
そしてスマートフォンをはじめとして、動作周波数の高いアプリケーションにおいては、動作クロックの高調波まで含めると非常に高い周波数帯のノイズが放射され、場合によっては無線LAN、Bluetooth、LTEなどの無線通信に悪影響を及ぼすことがあります。
そのため周辺機器へのノイズ障害の抑制はもちろん、電子機器内部での自家中毒を防止するためにも、部品レベルでのシールド対策は重要となります。
プリント基板
プリント基板では、主に伝送線路のパターンから放射されるノイズに対して電磁波シールドが必要となります。
プリント基板の伝送線路は、特定の周波数(100MHz~)において効率の良いアンテナとして機能するため、伝送線路にノイズが重畳している場合には、プリント基板からノイズが放射されてしまいます。
そのためシールド対策として、プリント基板を覆うようにしてシールドケースを設置します。このシールドケースには、基板上に熱がこもらないように通気孔が設けることが多いです。通気孔の影響については、以下の記事で解説しています。
電子機器全体
電子機器全体では、プリント基板から放射されるノイズに加えて、機器内部のケーブルから放射されるノイズに対して電磁波シールドが必要になります。
機器内部のケーブルは、プリント基板の伝送線路よりも線長が長く、またリターン経路も貧弱であることが多いため、より低い周波数(10MHz~)から高いレベルのノイズが放射されます。
そのためシールド対策として、電子機器の筐体に金属製の筐体を使用します。金属筐体の種類は、シールド効果だけで考えると導電率が高いものが好ましいですが、筐体としての剛性や意匠性も重要となるため、アプリケーションによって種類が大きく異なります。
電子機器全体のシールドにおいても、熱のマネジメントが必要となるため通気孔を設けることが一般的です。
ケーブル
ケーブルは、電子機器の中でも最も効率の良いアンテナ(放射源)として作用するため、シールド対策は非常に重要とされています。
特に USBをはじめとして高速伝送が可能な通信ケーブルにおいては、2重シールドや3重シールドなど、シールド層が多層化されたシールドケーブルが使用されます。
これらのシールド層は、伝送線路としてみると「シグナルグランド」としての役割を持っており、リターン電流がノイズ電流を打ち消すように作用することで、外部へ漏洩する電磁波を低減します。
これをノイズ対策という観点で見ると、打ち消された電磁波があたかも閉じ込められているように見えることから、シールドケーブルのシールド効果とみなされます。
ただしこのシールド効果は、リターン電流が流れることによって発生するものであるため、シールドケーブルのシールド層は、両端とも基板のシグナルグランド、またはフレームグランドに接地する必要があります。
またこの接地に関しては、如何に低いインピーダンスで接続できるかが重要で、ピッグテールのような細い線で接地した場合には、接地線のインダクタンスによって高い周波数においてシールド効果が低下します。
そのため、高い周波数までシールド効果が必要な場合には、同軸コネクタのようにコネクタ全体をシールド層で覆い、360°全てをグランドへ接続させる必要があります。
シールド対策の考え方
シールド対策も、ノイズ障害の根本的な原因を抑制する働きは持ちませんが、外部への漏洩するノイズを大幅に低減できるため、ノイズ対策の手法としては非常に有用です。
また設計段階でノイズの放射源が予想できる場合には、シールド部品(シールドキャップ、シールドケース、シールドケーブルなど)を使って事前に対策できることに加えて、エミッション試験やノイズトラブルの段階においても金属テープやシールドチューブを使用して追加対策を行うことができるため、非常に汎用性が高いノイズ対策の手段と言えます。
ただしシールド対策は、ノイズの放射箇所によって対策方法が大きく異なるため、ノイズの周波数や電子機器の構成(機器内配線・外部ケーブルの有無)から放射源を特定できない場合には、過剰なノイズ対策に至ることも多いです。
おわりに
今回は、ノイズ対策の3つの基本手法と具体的な対策手段について解説しました。
- グランド対策
- シールド対策
- フィルタ対策
ノイズ対策を行うにあたっては、それぞれの場面で、どのような対策手段を取ることができるかを正しく理解しておくことが重要です。
ノイズ対策に対して難しそうなイメージを持っている方も多いですが、対策手法という切り口を持っておくことで、ノイズ対策の見え方が変わってくるので、ぜひ実務の中で取り入れてみてください。
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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。