高周波回路

ミックスドモードSパラメータとは

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ミックスドモードSパラメータは、平衡回路や差動伝送回路の特性を表すときに使用されるパラメータで、例えばUSBやHDMIといった高速の差動通信規格の評価に使用されています。

そこで今回は、まずはじめにSパラメータについて簡単におさらいした後に、ミックスドモードSパラメータの概要とその評価方法について解説します。

動画はコチラ↓

 

Sパラメータの概要

Sパラメータは、回路や電子部品の特性を表すパラメータの1つです。

入射信号に対して、どのような反射・透過特性を持つかを行列で表したものになります。

表記方法

ここでは4ポートデバイスをもとにSパラメータの行列の中身について見てみます。

ポートというのは信号が入出力される端子のことで、4ポートの回路の場合、1つの入力端子に対して、そのポートも含めて4つの端子に対して信号が出力されます。

そのため、4×4の16要素の行列式となり、各要素に付けられた添字は信号の入力ポートと出力ポートを表しています。

そして、ここで注意すべきことは信号の入出力と添字の関係性です。

直感的には、「入力ポート」→「出力ポート」の順の方がわかりやすいですが、Sパラメータは「出力ポート」→「入力ポート」の順で表記されています。

 

 

ミックスドモードSパラメータとは

ミックスドモードSパラメータは、4ポートのSパラメータを拡張したものとして考えると
理解しやすいです。

表記方法

通常のSパラメータと比較すると表記ルールは同じですが、ポートの情報に加えて、信号の伝送モードが添字に追加されています。

信号の伝送モードは、差動伝送における差動信号と同相信号のことで、差動信号のことを「ディファレンシャルモード」、同相信号のことを「コモンモード」と呼んでいます。

そしてそれぞれのポートは、通常のSパラメータの場合には物理的なポートと対応していましたが、差動伝送がもともと2本の線を使って信号を伝送しているため、ミックスドモードSパラメータの場合には、入出力のポート数は2となります。

これに加えて、ディファレンシャルモードとコモンモードが存在するため、ディファレンシャルモードの「ポート1」と「ポート2」、コモンモードの「ポート1」と「ポート2」として表されます。

読み方

そして行列の中身は、例えば「Sdd21」は添字が dd となっているため、ディファレンシャルモードの信号がディファレンシャルモードとして伝わり、かつ添字が 21 となっているのでポート1からポート2へ透過する信号という意味になります。

差動伝送の場合には、信号のロスがどの程度なのかを把握するときに重要なパラメータとなります。

他には Scd12 であれば、ポート2から入力されたディファレンシャルモードの信号が
ポート1にコモンモードとして透過する信号という意味になります。

理想的な差動伝送線路においては、完全に対称な構造となっているため信号の伝送モードは変わりませんが、回路に非対称性がある場合には、その非対称な箇所で電磁界的な乱れが生じるために、いわゆる「モード変換」と呼ばれる現象が発生します。

このモード変換は、ディファレンシャルモードがコモンモードに変換されたとすると、このコモンモードがノイズとなって外部へ電波として放射され、エミッション性能を低下させるといったことに繋がります。

そのため差動伝送回路では、このモード変換がどの程度発生するのかを定量的に把握することが重要となります。

このようにミックスドモードSパラメータは、差動伝送の信号品質に関わる「信号のロス」や「ゲイン」、さらには「反射量」や「モード変換量」を把握するために重要な特性となります。

行列の分割

ちなみにミックスドモードSパラメータは、全体を4つのブロックに分けることで少し見通しが良くなります。

このようにざっくりでいいので、それぞれのブロックの伝送モードを知っていれば、要素の意味が理解しやすくなります。

 

ミックスドモードSパラメータの評価方法

ミックスドモードSパラメータはネットワークアナライザで評価することができます。

評価機器

ただし注意すべきことが1つあり、それは4ポートのネットワークアナライザが必要になるということです。

出典:キーサイト・テクノロジー

差動伝送線路の場合、2本の線に対してそれぞれに入出力が存在するため、ミックスドモードSパラメータを評価するためには4つのポートを持ったネットワークアナライザが必要となります。

評価系統図

ミックスドモードSパラメータを測定するにあたって、ネットワークアナライザのポートは不平衡回路であるため、差動伝送のような平衡回路を測定するためには「バラン」が必要となります。

ただしバランを使ったとしても、バランが挿入されることで測定対象(DUT)の端子面で校正することができず、またバランが周波数特性を持つために測定誤差が発生します。

Sパラメータの変形

そこでネットワークアナライザにおいては、通常のSパラメータからミックスドモードSパラメータを計算によって求める方法を取ります。

実はSパラメータとミックスドモードSパラメータは相互に変換することが可能で、4ポートのSパラメータのデータをもとにして、ミックスドモードSパラメータを求めることができます。

回路シミュレータの活用

4ポートのSパラメータのデータをTouchstoneファイルとして保存していれば、回路シミュレータを使って計算することも可能です。

例えば無料の回路シミュレータの「QucsStudio」においては、ミックスドモードSパラメータ用のExampleファイルが用意されているので、このデータを改良してTouchstoneファイルを呼び出せるようにすれば簡単に計算できます。

 

 

おわりに

今回はSパラメータを簡単におさらいした後に、ミックスドモードSパラメータの概要と評価方法について解説しました。

ミックスドモードSパラメータのようにモードごとに分けて考えるというのは、ノイズ対策するときに役立つ考え方なので、頭の片隅にでも置いておく良いかと思います。

ミックスドモードSパラメータについて、より詳細を知りたい方は「高周波回路設計のためのSパラメータ詳解」がおすすめです。

ミックスドモードへの変換も含めて、Sパラメータに関する基礎から応用までが一通り網羅されており、さらには式の導出方法も丁寧に解説されているので、しっかり読み込めば高周波に関する理解が飛躍的に高まります。

Sパラメータの基本やバラン、平衡回路と不平衡回路などについては、別の記事で解説しています。

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今回は以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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