伝導エミッションのノイズ対策において、最後の切り札として使用するものが電源ライン用の「ノイズフィルタ」です。
特にスイッチング電源やインバータ、サーボモータなどは、もともとのノイズレベルが高いため、ノイズフィルタを使用しなければ規格の限度値に適合できないことがほとんどです。
そんなノイズフィルタですが、使用方法を間違えているとノイズ対策効果が得られなかったり、あるいは使用方法を工夫することでノイズ対策効果が向上したりと、実は知っておくべき知識が数多く存在します。
そこで今回は、そんなノイズフィルタの効果的な使用方法について解説します。
動画はコチラ↓
ノイズフィルタとは
電源ラインに使用するノイズフィルタはLC回路で構成される「ローパスフィルタ」です。
「EMIフィルタ」と呼ばれることもあります。
電源ラインにおける信号は、商用の50Hz、60Hzの電源電圧、電源電流を指します。
つまり機器に電力を供給するために商用電源周波数の電流は流すが、それ以上の周波数の電流は流さない、というのが理想の電源ライン用のノイズフィルタです。
現実には上記のようなノイズフィルタはありませんが、規格限度値への適合といった観点で考えると、150kHz以上のノイズ電流を流さない役割が求められます。
選定基準
このときに重要になるのが、ノイズの伝搬モードと素子の定数です。
ノイズの伝搬モードには「ノーマルモード」と「コモンモード」があり、それぞれの伝搬モードごとにノイズフィルタが必要になります。
また150kHzの低い周波数のノイズを対策するためには、素子の定数はできる限り大きいほうがカットオフ周波数が低くなるため効果的です。
電源ラインのノイズ対策の考え方の詳細は、以下の記事で紹介しています。

2段フィルタを使用する
信号用フィルタと同様に、フィルタの次数が大きいほどノイズの減衰量が大きくなります。
次数とは、LC回路に使用されるの「コイルL」と「コンデンサC」の数量のことです。
先述したように、ノイズの伝搬モードごとに対策が必要になるため、フィルタの次数も伝搬モードごとに違います。
ノイズフィルタメーカーの製品紹介ページを見ると、「2段」や「高減衰」といった表現で製品を分類しています。
段数の比較例からも、1段よりも広い周波数帯域で減衰量が大きくなっていることがわかります。

ノイズフィルタの入出力を反転させる
ノイズフィルタの銘版には入力と出力の向きが記載されています。
しかし、ノイズフィルタ自体は入力と出力を逆転しても機能します。
実際の機器においては、ノイズフィルタの向きを逆にするとノイズレベルが下がるということがたまにあります。
この理由はノイズフィルタの向きによってノイズの減衰量が異なるためです。
どちらの向きの方がノイズ減衰量が大きいかは、EUTのインピーダンスや負荷のインピーダンスによって異なるので、ノイズレベルが下がらないときには試して見る価値はあります。
一応、メーカーのページでも事例が紹介されています。

2台直列に接続する
2段フィルタを使用するのと同じ考え方です。
2段フィルタを設置するためのスペースが確保できない場合などに有効な方法です。
原理的には2段フィルタになるので、2段フィルタと同等のノイズ減衰量が期待できます。
また設置向きを2つのうちの1つの入出力を反転させたり、2つとも入出力を反転させることで、2段フィルタとは違ったノイズ減衰量を得ることも可能です。
ただし配線の手間は増えるので、あまりオススメできる方法ではありません。
グランド線を短くする
これはノイズ対策の基本中の基本ですね。
よく”グランド線は太く短く”と言われますが、これはまさにノイズフィルタの接地に関することです。
一番良い方法は、ノイズフィルタの筐体を装置の筐体にそのままビスで固定することです。
ノイズフィルタの筐体はYコンデンサのグランド側と接続されているので、装置の筐体と接続することで最短のグランド線として機能させることができます。
注意事項
注意事項としては、装置の筐体の塗装のない場所にノイズフィルタを設置することです。
塗装面上に設置すると、導通が取れないのでグランドとして機能しなくなります。
ノイズフィルタの設置場所の塗装は、必ずマスキングするか剥がすようにしましょう。
耐飽和モデルを使用する
インバータやサーボモータなどの大電流でスイッチングする装置は、コモンモードのノイズ電流が非常に大きい場合があります。
このような機器に普通のノイズフィルタを使用すると、コモンモード電流が大きすぎてコモンモードチョークコイルが飽和し、急激にインダクタンスが低下します。

そして、インダクタンスが低下することでノイズの減衰量も低下します。
そのような事態を避けるためにも、ノイズレベルが高い装置の場合は「耐飽和タイプ」のノイズフィルタを使用する必要があります。

各メーカーから耐飽和タイプが販売されているので、気になる方はチェックしてみてください。
おわりに
ノイズフィルタの効果的な使用方法について紹介しました。
当たり前なことから、ノウハウ的な内容まで様々なテクニックがあります。
ノイズフィルタが効かない場合の原因(原理)については、以下の記事で解説しているので興味のある方はそちらの記事もチェックしてみてください。


フィルタ回路に興味のある方は、以下の記事も参考になると思います。



今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。