この記事では、三相用ノイズフィルタにおける結線方式と漏れ電流の関係性について解説しています。
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三相用ノイズフィルタの特性の違い
産業機器の多くは電源ラインのノイズ対策として三相用ノイズフィルタを使用していますが、実は三相用ノイズフィルタにはデルタ結線向けかスター結線向けかで減衰特性に違いがあります。
なおデルタ結線とスター結線の違いは、以下の記事で解説しています。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2023/07/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%81_%E4%B8%89%E7%9B%B8%E4%BA%A4%E6%B5%81-320x180.jpg)
比較対象
ここでは例として、TDKラムダ製のデルタ結線向けノイズフィルタ RTEN-5050とEPCOS製のスター結線向けノイズフィルタ B84143A0050R105を比較してみます。
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この2つのノイズフィルタは定格電圧が500Vクラスで、定格電流値が50Aです。
回路構成
2つのノイズフィルタの回路構成を見比べてみると、どちらのノイズフィルタともXコンデンサ、コモンモードチョークコイル、Xコンデンサ、Yコンデンサの順で並んでいます。
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つまり、回路的に見れば同じような構成であるということです。
減衰特性
一方でこの2つのノイズフィルタの減衰特性を見比べてみると、特にコモンモードのノイズ抑制効果に大きな違いがあります。
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具体的にはRTEN-5050が2MHzあたりげ減衰量のピークを迎えているのに対して、B84143A0050R105は300kHz あたりで減衰量が最大となっています。
この2つの減衰特性の違いは、特に150kHz~30MHzの周波数帯を対象とした伝導エミッション試験のノイズ対策として考えたときに、より低い周波数で高いノイズ抑制効果が得られるB84143A0050R105の方が優れていると言えます。
減衰特性が異なる理由
ノイズフィルタではローパス型のLCフィルタによって高周波ノイズを減衰させますが、低い周波数で高い減衰量を得るためにはコモンモードチョークコイル、またはYコンデンサの定数を大きくする必要があります。
ノイズフィルタのモードと減衰量の関係性については、以下の記事で解説しています。
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このうちコモンモードチョークコイルについては、インダクタンスを高くするためには巻数を増やす必要があり、それによって大型化してしまうというデメリットがあります。
一方でYコンデンサについては、静電容量が大きくすると漏れ電流が大きくなるため静電容量に制限が設けられています。
ではこのような制約がある中で、なぜ2つのノイズフィルタの間の減衰特性に差があるかというと、それはデルタ結線向けとスター結線向けで漏れ電流の考え方が異なるためです。
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漏れ電流の計算方法
データシート上でこの2つのノイズフィルタの漏れ電流を比較します。
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RTEN-5050は 500V/60Hzで 5mA、 B84143A0050R105は 520V/60Hzで 4.7mAとそれほど大きな差は無いように見えますが、漏れ電流を実際に計算してみると減衰特性に差が生じる原因が見えてきます。
漏れ電流の定義
三相用ノイズフィルタの漏れ電流の計算方法は IEC60939の中で規定されており、今回はそちらを参考します。
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この規格で三相用ノイズフィルタの漏れ電流は Ilk = 2 * Π * Fr * Vnm * Cy と定義されています。
この式の中で注目すべきポイントは、中性点とアース間の電位差を表す Vnm です。その理由は、デルタ結線とスター結線でこのVnmに違いがあるためです。
漏れ電流の比較
ここではわかりやすいように中性点Vnmに着目して、デルタ結線向けとスター結線向けで漏れ電流を比較します。
スター結線向け
スター結線では中性点を直接アースに接続することが一般的で、理想的には中性点とアースは同電位となります。
つまりVnmが 0Vとなり、漏れ電流が流れないということです。
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ただしこれはあくまでも理想状態における話で、実際の三相交流電源においては各相電圧の振幅差、位相差、更にはYコンデンサの静電容量のばらつきなどの影響によって中性点に若干の電圧が生じ、その分の漏れ電流が流れます。
とはいえ、この中性点に生じる電圧は非常に小さいためスター結線向けノイズフィルタではYコンデンサの静電容量を大きくすることができ、それによって低い周波数で高い減衰量が得られます。
デルタ結線向け
一方でデルタ結線の場合、スター結線のように中性点に相当する点がないため、いずれかの端子を接地します。
すると接地された端子は相電圧が0Vとなり、これによってYコンデンサに流れる電流が三相で打ち消し合わなくなります。
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これを前述の式に当てはめると、中性点とアース間の電位差 Vnmが上昇したことと等価であり、そのためデルタ結線用のノイズフィルタにおいてはYコンデンサの静電容量を大きくできません。
結線方式の影響
このように接続先として想定する結線方式によってYコンデンサの使用可能な静電容量に違いがあり、それによってノイズフィルタの減衰特性に差が生じます。
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ただし、スター結線向けのノイズフィフィルタを日本の電源系統(デルタ結線方式)に接続すると、漏れ電流が大きすぎることによって漏電ブレーカーが作動するなどのトラブルを引き起こすことがあります。
これがグローバル販売する産業機器のノイズ対策の難しいところで、海外向けで採用したノイズフィルタを安易に国内向けの機器に採用することができません。
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デルタ結線におけるノイズ対策の考え方
スター結線向けのノイズフィルタをデルタ結線の電源に接続すると、漏れ電流によるトラブルが発生することがあります。
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このようなトラブルを回避する方法としては、漏電ブレーカーの容量を大きくしたり、電源ラインに絶縁トランスを入れたりすることが挙げられます。
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ただし、いずれの方法とも部品性能の向上や部品の追加が必要となり、それに合わせてコストアップや設置スペースが増加してしまいます。
そのため日本の三相交流電源(デルタ結線)でノイズフィルタを使用する場合には、デルタ結線向けのノイズフィルタを選択しておくのが無難と言えます。
スター結線向けを使用したい場合
ノイズ対策の必要性から、どうしてもスター結線向けのノイズフィルタを使用したいこともあります。そうした場合には、トラブルを未然に防ぐためにも必ずデータシートの漏れ電流値をチェックし、詳細が不明な場合はメーカーに問い合わせするようにしてください。
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カスタム対応も可能
もしスター結線用のノイズフィルタの中に要求を満足する特性のものがなければ、メーカーに相談してみるのも1つの手です。
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例えばTDKエレクトロニクス社製 EPCOSブランドのノイズフィルタの場合には、特定顧客向けに開発された漏れ電流の小さいタイプが存在します。
またTDKラムダ製の別のシリーズのものを提案してもらえる可能性が高いので、三相用のノイズフィルタの選定でお困りの方はぜひ1度メーカーに相談してみてください。
おわりに
今回は三相用ノイズフィルタの使いこなす上で重要となる、スター結線とデルタ結線の方式の違いによる漏れ電流の問題点について解説しました。
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漏れ電流の問題は、特にグローバル展開している産業機器においては非常に厄介な事柄の一つで、デルタ結線向けのノイズフィルタとスター結線向けのノイズフィルタの違いをきちんと理解していないと思わぬトラブルを引き起こすことになります。
そのためまずは同じノイズフィルタでも結線方式によって漏れ電流の大きさが異なることを理解しておいてください。
メーカーへの相談はこちら↓
https://product.tdk.com/ja/search/emc/emc/power-line/catalog
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。