今回は平衡回路と不平衡回路の「特徴」と「用途」について解説します。
動画はコチラ↓
平衡回路
そもそも平衡回路に使われる「平衡」とは何を意味しているのでしょうか?
ここでの平衡は英語の「Balanced」を和訳したもので、釣り合いが取れているということを意味しています。
電気回路においては、電圧の釣り合いが取れているという意味です。
電気信号を伝送する場合、送信側と受信側を導体によって接続しますが、このときにただ単に1本の線だけを接続しても信号を伝送することはできません。
これは電流が流れるための閉ループがないと電気信号が流れないからです。
そのため平衡回路においては、信号を伝送するために送信側と受信側を2本の導体で接続し、それぞれの線を行き道と帰り道とします。
すると行き道と帰り道にはGNDの 0V を基準電位として、正負が逆向きの電圧が掛かることになりますが、このときに両者の和が 0 になる、つまり釣り合いが取れているというのが平衡回路の特徴です。
これは信号が交流の場合でも同じです。
交流の場合には、行き道の信号に対して振幅が等しく、位相が180°ズレていた電圧が帰り道の方に掛かります。
そして平衡回路では、両者に同じ向きの電圧、いわゆるコモンモードノイズが掛かったとしても、差分を取ることでノイズの影響を打ち消すことができるため、一般的に平衡回路はノイズに強い伝送方式と言われています。
ちなみに平衡回路は別の呼び方として「差動伝送」「差動通信」「ディファレンシャルモード」と呼ばれることもあります。
それぞれ厳密な使い分けがあるわけではありませんが、このような用語が出てきたときには
平衡回路と同じ意味だということを理解しておいてください。
不平衡回路
不平衡回路は言葉の通り、釣り合いがとれていないということで、平衡回路のように行き道と帰り道の和をとったときに電圧が 0 にはなりません。
不平衡回路の場合は、信号を伝送するにあたって送信側と受信側を1本の線で接続し、基準電位となるGNDを信号の帰り道として利用することで信号を伝送します。
このとき行き道となる線の方には電圧が掛かっているのに対して、帰り道となるGNDの方は電圧が掛かっていないため、両者は釣り合いが取れていません。
この不平衡回路は、基準電位に対する電圧がそのまま信号として伝送されるため直感的にも理解しやすいかと思います。
また信号を伝送するための線も、1つの信号に対して1本の線で賄うことができるため、平衡回路と比較すると低コスト化しやすいというメリットがあります。
一方でノイズに対しては、信号線に対してクロストークなどの外来ノイズに対して影響を受けやすく、またGNDの電位が変動した場合にもその影響が顕著となるため、ノイズ耐性という観点では平衡回路よりも劣ります。
また信号の伝送としてみると、平衡伝送と比較して高い電圧が必要で、そのことで立上り、立下り時間が長くなるため、高速伝送においても不利だと言われています。
ちなみに呼び方については、不平衡回路を「シングルエンド伝送」と呼ぶこともあります。
用途
それぞれの実際の使用例を紹介します。
平衡回路
ケーブルであればツイストペアケーブル、アンテナであればダイポールアンテナ、通信方式ではRS-485をはじめとして、USB、Ethernet、HDMIなども差動通信方式の平衡回路となります。
このうちダイポールアンテナはエレメントが2つあって、それぞれにプラスとマイナスの電荷が帯電して電界が発生していることからも、平衡回路であるということが理解しやすいかと思います。
反対に少し分かりづらいのが、USBなどの高速通信の伝送線路です。
USBケーブルなどは、パッと見は1本のケーブルに見えるので平衡回路と言われても違和感を覚えるかもしれません。
しかし実はUSBケーブルの場合、外側に見えているのは複数のケーブルが束になったもので、内部の断面を見てみると電源線、GND線、そして通信線によって構成されています。
このうち通信線は、プラスとマイナスがそれぞれ別の線となっており、この2本の線間の電圧によって信号の伝送が行われるため平衡回路ということになります。
このようにUSBを含めて、高速通信の伝送線路はパッと見は1本のケーブルに見えますが、中には複数のケーブルが通っており、さらにその通信線が平衡回路となっているというパターンがよくあるので注意してください。
不平衡回路
不平衡回路の代表的な使用例としては、ケーブル状のものに同軸ケーブル、アンテナであればロッドアンテナやパッチアンテナ、通信方式としてはRS-232、さらには基板上で伝送する多くの信号がシングルエンド方式、つまりは不平衡回路となります。
この不平衡回路で最も理解しやすいのは同軸ケーブルです。
同軸ケーブルは、信号線となる中心導体とGNDとなる外導体で構成されており、中心導体を通った信号が外導体から帰ってきます。
このときに外導体の方はGNDで、中心導体に対して電位が釣り合った状態にはならないため不平衡回路であるということがイメージしやすいかと思います。
また基板上に構成されるマイクロストリップラインもシグナルグランドを信号の帰り道としており不平衡回路ということになります。
とりわけ基板では、1つのGNDに対して様々な信号線が張り巡らされており、このように複数の信号線に対してGNDを共通の帰り道として使うことで、平衡回路と比較して信号線の数を削減できるというのが不平衡回路の1番のメリットとなります。
平衡回路と不平衡回路は、それぞれ違った特徴を持つため使われ方も異なるわけですが、実際の回路においては併用したり、さらには相互に接続されることもあります。
平衡回路と不平衡回路の接続にあたってはバランという部品が必要になります。
バランについては以下の記事を参照ください。
おわりに
今回は信号の伝送方式を表す「平衡回路」と「不平衡回路」の特徴や使用例について解説しました。
それぞれメリットとデメリットがあるので、用途に合わせて使い分けることが大切です。
また、平衡回路と不平衡回路を意図せず接続すると思わぬノイズトラブルを招く原因となるので、それぞれの代表的な使用例については知っておくと良いかと思います。
伝送線路に関して体系的に学びたいという方には「シグナル・インテグリティ入門」がおすすめです。
(2024/12/04 17:54:32時点 Amazon調べ-詳細)
この書籍では、今回解説した平衡、不平衡の他にも、信号を正しく伝送するために必要な知識が細かな数式の導出をもとに解説されています。
値段は少々張りますが、日頃の業務でも役立つので職場に一冊あると非常に役立つかと思います。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。