EMC村の民
~iNarte EMCエンジニアへの道~
ノイズ対策

ノイズフィルタが効かない理由(入出力のインピーダンスの影響)

 

以前の記事で、EUTのインピーダンスや負荷のインピーダンスによってノイズフィルタの効果が変わるということを紹介しました。

ノイズフィルタを効果的に使用するためのノウハウノイズフィルタの効果的な使用方法を紹介しています。...

 

実際にノイズ対策していると、データシートに記載されているデータ通りの効果が得られることはほとんど無いですよね。

これはデータシートに記載されている特性(挿入損失)が、入出力のインピーダンスが50Ωの条件で規定されているためです。

挿入損失の測定方法 出典:岡谷電機産業

 

そこで今回の記事では、入出力のインピーダンスによってノイズフィルタの挿入損失特性が変化する理由について紹介します。

 

フィルタ設計ツール

フィルタ設計にあたっては、これまでと同様に「QucsStudio」を使用します。

インストール方法は下記を参照ください。

高周波回路シミュレーター「QucsStudio」の導入方法(無料) 以前、フリーのツールとして「AppCAD」の機能を紹介しましたが、さらに無償ツールのご紹介です。 ...

 

今回はわかりやすい定数で計算するため「Filter synthesis」を使用しません。

「Filter synthesis」はパラメータを設定するだけで定数を決定できるツールです。

非常に便利ですので、興味のある方は試してみてください。

LCフィルタの設計方法LCフィルタの特徴と設計方法(ローパスフィルタの設計例)について紹介しています。...

 

挿入損失の計算方法

「挿入損失」は、回路の入力電圧と出力電圧の比を表したもので、一般的にはデシベル[dB]で表されます。

デシベルの取り扱いについては、下記の記事を参考にしてください。

EMI試験でdB(デシベル )を使う意図EMI試験を行っていると、規格の限度値で「dB〇〇」という単位が出てきます。 例えば ➀ 放射エミッション(電界強度)の場合は「dB...

 

フィルタの挿入損失特性を求めるためには、フィルタの挿入損失だけでなく、フィルタなしの時の挿入損失も求める必要があります。

 

例えば、入出力のインピーダンスが50Ωの場合を考えてみます。

信号源の電圧が1V、出力抵抗と負荷抵抗がそれぞれ50Ωとします。
(ネットワークアナライザでの計測を模擬)

この系においてフィルタがない状態でも、出力電圧は50Ωの抵抗で分圧されることで0.5Vになります。

フィルタがない状態でも電圧が半分になってしまうわけで、この分を予め補正する必要があります。

補正値としては 0.5V ⇛ -6dB となります。

 

もう一つ例を見てみましょう。

信号源の電圧が1V、出力抵抗が1Ω、負荷抵抗1MΩとします。
(オシロスコープでの計測を模擬)

このとき出力電圧は、0.999999V ≒ 1Vです。

このような場合には、補正値は 0dBとして計算されます。

 

では、フィルタの挿入損失を計算していきましょう。

まずはフィルタなしの回路を準備します。

ネットの名称は入力電圧を「IN」、出力電圧を「OUT」とします。

 

つぎにフィルタ回路です。

フィルタ回路は、入出力インピーダンスの組み合わせを例として6種類作成します。

フィルタ組み合わせフィルタ回路の組み合わせ例 出典:コーセル

 

ネットの名称は「”回路のトポロジー” + “IN or OUT”」です。

 

挿入損失を計算してみましょう。

π型フィルタの場合、入出力の電圧比「PI_OUT / PI_IN」に対して、フィルタなし「OUT / IN」で補正します。

下の式ではデシベルで計算しているため、引き算で補正しています。

これで各回路の挿入損失が求まりました。

 

50Ω系の挿入損失の計算例

それぞれの回路ごとの挿入損失の違いについて見ていきましょう。

コイルとコンデンサの定数をそれぞれ「1uH」と「1uF」に設定し、入出力のインピーダンスが50Ωの場合で計算しています。

信号源インピーダンス50Ω 負荷インピーダンス50Ω

 

まず1次のフィルタの「C_TYPE(黄色」と「L_TYPE(ピンク)」で比較します。

C_TYPE(黄色」は周波数が高くなるに従って負荷の合成インピーダンスが低下するため、挿入損失が大きくなります。

一方L_TYPE(ピンク)」は、周波数が高くなるに従って信号源側のインピーダンスが高くなり、挿入損失が大きくなります。

 

ここでのポイントは、「コンデンサ」は「負荷のインピーダンス」、「コイル」は「信号源のインピーダンス」に対して作用するということです。

今回の例ではコンデンサとコイルが、50Ωの抵抗に対して影響を与えます。

1uFのコンデンサと1uHのコイルのインピーダンスは、表のようになります。

50Ωの抵抗に対する影響度で考えると、コンデンサは1kHz以上でインピーダンスが50Ω以下になるため、低い周波数から挿入損失が大きくなります。

一方のコイルは1MHz以上でようやく50Ω以上になるため、低い周波数では挿入損失が小さくなります。

これが同じ1次のフィルタでありながら、「C_TYPE(黄色)」と「L_TYPE(ピンク)」で挿入損失が異なる理由です。

 

つぎに「C_TYPE(黄色)」と「CL_TYPE(黄緑)」と「T_TYPE(赤色)」を比較してみましょう。

それぞれフィルタの次数が1次、2次、3次であるにも関わらず、10MHz以下の周波数では挿入損失が概ね同じです。

これは10MHz以下のコイルの挿入損失が小さいためです。

 

フィルタの減衰傾度は、一般的に次数によって決まると言われます。

減衰傾度については、以下の記事で解説しています。

オペアンプを使用したローパスフィルタの設計方法オペアンプを使用したローパスフィルタ(アクティブフィルタ)特徴、用途、設計方法について紹介しています。...

 

しかし次数が大きくても、コンデンサやコイルのインピーダンスが入出力のインピーダンスに対して影響を与えなければ低次のフィルタとしてしか機能しません。

 

今回の例では、10MHz以下ではコイルがほとんど影響を与えないため、「C_TYPE(黄色)」と「CL_TYPE(黄緑)」と「T_TYPE(赤色)」の挿入損失に差がありません。

 

一方で10MHz以上の周波数においては、フィルタの次数による違いが表れ、2次フィルタ「CL_TYPE(黄緑)」は -40dB/decade、3次フィルタ「T_TYPE(赤色)」は -60dB/decadeとなっています。

ここでも入出力のインピーダンスがフィルタの挿入損失に影響を与えることがわかりますね。

 

最後に3次のフィルタ同士「T_TYPE(赤色)」「PI_TYPE(青色)」を比較してみます。

まず100kHz以下に着目します。

PI_TYPE(青色)T_TYPE(赤色)よりも挿入損失が 6dB大きいです。

これはPI_TYPE(青色)が並列にコンデンサが2つ並んでいるためです。

コンデンサが並列に2つ接続されることで容量が2倍になります。

容量が2倍になるとインピーダンスが 1/2 なり、挿入損失が 2倍 ⇛ 6dBになります。

 

そして100kHz以上になると、PI_TYPE(青色)は 225kHzに共振が発生しています。

この共振はLC回路の直列共振によるものです。

上図の閉ループにおいて、コンデンサは直列接続されるため合成容量が半分になります。

合成容量が 0.5uFの時の共振周波数は、以下の式から 225kHzとなります。

さらに共振周波数以上の周波数帯域では、コイルが作用しはじめることで3次のフィルタとして機能しはじめ、-60dB / decadeの傾きで挿入損失が大きくなっていきます。

 

このように50Ω系ではπ型フィルタ(PI_TYPE)の挿入損失が最も大きいですが、入出力のインピーダンスによってその優位性が変わります。

 

おわりに

長い記事を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

といっても、まだ続きます(笑)。

 

次回の記事では、挿入損失と入出力のインピーダンスの関係性について実例で紹介します。

ノイズフィルタが効かない理由(シミュレーション検証)「ノイズフィルタが効かない原因」を「入出力のインピーダンス」の観点から説明しています。...

 

なお今回の記事ではわかりやすくするために、コンデンサやコイルは理想的なモデルを使用しています。

実際にフィルタ回路として設計する場合には、寄生成分を加味してモデリングする必要があります。

抵抗、コンデンサ、コイルのモデリング方法を下記の記事で紹介しています。

抵抗のモデリング方法(3素子モデル)EMC設計を考慮した抵抗のモデリング方法を紹介しています。...
コンデンサの等価回路モデルの紹介EMC設計に使用するコンデンサの等価回路モデルとして、3素子モデル、5素子モデル、他素子モデルについて紹介します。...
コイルの等価回路モデルの紹介コイルの等価回路モデルについて紹介しています。...

フィルタのシミュレーションにおいては、非常に重要な内容となりますので是非チェックしてください。

 

今回は以上です。

改めて、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

ABOUT ME
エンジャー
EMCやノイズ対策に関する情報発信を日々行っています。 ( iNarte EMC Engineer、第一級陸上無線技術士)

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