テクノロジーの発展によって、ますます便利になる現代社会。
その発展の多くは「無線化」の進展でもあります。
そこで今回の記事では、無線化に関わる「3つ」の社会変化から「EMCエンジニアの必要性」について考えてみます。
IoTデバイス
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古くは「ユビキタス」や「M2M」などと呼ばれていましたが、近年は「IoT(Internet Of Things)」として完全に定着した「モノのインターネット」。
これまで「スタンドアロン」として動作していた電子機器が、インターネットを経由して機器同士が通信する機能を持つようになりました。
通信機能は有線・無線を問わず実装可能ですが、今後より普及が期待されるセンシング分野においては「無線通信」が主流になります。
無論、無線通信においては周囲の電波環境が通信の可否を大きく作用するため、EMC設計の必要性が高まることは言うまでもありません。
IoTの無線通信は、少ない電力で広いエリアをカバーする無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)方式」がメジャーで、「SIGFOX」「LoRa」「IEEE801.11ah(Wi-Fi HaLow)」などの通信規格があります。
いずれも世界各国で実用化が進んでおり、今後さらに「5G」も普及しはじめることで更なる電波環境の複雑化が予想されます。
つまり、IoTデバイスの普及が進むほど、EMCエンジニアに対する社会要請も増えるということになります。
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自動運転
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公道全ての領域での「自動運転」はまだまだ難しいと言われていますが、それでも自動運転の実用化は着々と進んでいます。
言うまでもなく、自動運転の実現のためには「ミリ波レーダー」をはじめとした「電波」を利用した技術が多く取り入れられています。
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加えて「ステレオカメラ」や「LIDAR」においても、画像処理したデータを制御に反映させるため「高速通信」が必要で、その通信によるエミッションノイズが問題となることも少なくありません。
これまでも「自動車のEMC規格」は、民生や産業分野の電子機器と比較して厳しいレベルでEMC性能を規定していました。
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しかし自動運転の普及によって、特に人命に影響を与える可能性が高い「イミュニティ性能」は、これまで以上に「高いレベル」や「試験項目」が求められることは必至です。
現在でも車載EMC試験が実施できる「電波暗室」は稼働率が高く、需要が逼迫していると言われています。
そうした状況下で「試験項目」や「試験工数(ノイズ対策に掛かる時間も含む)」が増加すると、EMC試験所のキャパシティを大きく上回ることになるため「電波暗室」や「EMCエンジニア」に対する需要はますます高まってくるでしょう。
ワイヤレス給電
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無線通信が当たり前の技術として普及してきたように、今後は無線給電(ワイヤレス給電)が普及することが予想されます。
ワイヤレス給電の適用分野としては、現在最も普及が進む「民生分野」に留まらず、将来的には自動車の充電にも実用化される見込みです。
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自動車用のワイヤレス給電は、従来の民生向けと比較し遥かに大電力の給電となるため、周囲により大きな電磁的な影響を与えられることが予想されます。
ワイヤレス給電装置は「意図的放射機器」として扱われ、「CISPR規格」の他にも「電波法」による規制の対象にもなります。
ただし、規制が適用されるからといって必ずしも問題ないというわけではなく、未開拓な分野であるがゆえに、今後フィールドレベルで様々な問題が発生することが予想されます。
(先行事例としては、実用化初期のLED照明によるラジオの受信障害など)
そのため、EMC設計を考慮できるEMCエンジニアはもちろんですが、現場のノイズ環境の調査や施工管理に精通したコンサルタントタイプのEMCエンジニアの必要性も今後高まってくることが予想されます。
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おわりに
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「無線化」をテーマにEMCエンジニアの必要性(需要)について考えてみました。
いずれのトピックも社会の重要なトレンドであり、その中で「EMCエンジニア」の活躍の場はますます広がってくることが予想されます。
「トレンドに乗る」というと若干いかがわしく聞こえますが、世の中のニーズにが高まる分野に注力することは、限りある「リソース」を有効活用する上で重要な考え方です。
そういった意味で、活躍する場が広がる可能性が高い「EMCエンジニア」としてキャリアを歩んでいくことは、キャリア形成の観点からも十分「勝機」や「チャンス」があると考えます。
EMCエンジニアはもちろん、EMC分野に興味のあるエンジニアやビジネスマンも、これらの社会情勢を踏まえた上で自分自身のキャリアを考えてみてはいかがでしょうか。
(EMC試験所の試験員などは、未経験からはじめることも可能です。)
キャリアの選択肢の1つとして「EMCエンジニア」の道も悪くないですよ。
EMCエンジニアの仕事については、分類ごとに紹介しています。
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EMCエンジニアのこれまでの歴史と今後の方向性についても紹介しています。
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EMCエンジニアの仕事に興味が持てれば、具体的な行動に移してみましょう。
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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。