コイルは、「抵抗」「コンデンサ」と並んで電気回路において基本となる部品ですが、その機能や役割については磁気や磁界が絡んでくるため比較的難しいです。
そこで今回は、コイルの原理と回路中でのコイルの役割について解説します。
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コイルの基礎
コイルは、ただ単に電線を巻いてコイル状にしたものやコア材と呼ばれる芯材に電線を巻きつけたものなどがあります。総じては、電線が巻かれているという特徴を持っています。
コイルの特性
コイルの特性は「インダクタンス」によって表されます。
インダクタンスは、単位電流 I あたりに発生する磁束 Φ の量を表す係数として L = Φ/I [H] で求められ、単位は H [ヘンリー]で表されます。
コイルの呼び方
コイルの呼び方は、業界や職種によって若干違っています。さらに構造や用途に応じて
名称がさらに細分化されることもあります
- チョークコイル
- トロイダルコイル
- 空芯コイル
- 積層インダクタ
- 巻線インダクタ
- パワーインダクタ
- 昇圧リアクトル
- 平滑リアクトル ・・・
それぞれの呼び方に厳密な定義が存在するわけではありません。そのためこのような用語が出てきた場合には、とりえずコイルのことだと理解しておけば問題ありません。
コイルの分類
コイルの分類に関しては、「トランス」や「バラン」もコア材に巻線したものであるためコイルとして取り扱われることもあります。
コイルの原理
電線の状態から、コイルの原理を考えてみます。
電線に電流が流れると電流の進行方向に対して右ねじの方向に同心円状の磁界が発生します。この磁界の強さは、電流の大きさに比例し、磁界強度を H、電流を I、電線からの距離を r とすると、その大きさを H = I / 2πr [A/m] でが表すことができます。
そしてコイルにおいては電線が巻線になっているため、電流が流れるとそれぞれの電線によって発生した磁界が互いに強め合うように作用します。
このときコイルの中心の磁界の大きさは、単位長さあたりの巻数を n とすると
H = nI [A/m] となり、コイルの巻数に比例して磁界が強くなります。
電磁誘導
磁界から電流が発生するという関係も成り立ちます。つまりコイルに外部から磁界を与えると電流が流れるということです。
この現象は学校の教科書で「電磁誘導」として習うもので、コイルに対して磁石を近づけたり遠ざけたりすることで電流が流れます。この現象において重要なことは2つあります。
- 磁石を動かすこと
- 電流の流れる向き
磁石を動かすことは、ある点における磁界の強さを変化させているということで、これが周期的に繰り返される場合には交流の磁界が印加されていることに相当します。
そして交流の磁界は、ファラデーの電磁誘導の法則によって V = – dΦ / dt の電圧(逆起電圧)を発生させます。
ここで注目すべきポイントは、右辺の先頭のマイナス符号です。このマイナスが意味することは、右ねじの法則に従って流れる電流の向きとは逆向きの電圧が掛かっているということです。
これを電気回路へ置き換えると、コイルに流れる電流が急激に変化した場合に、コイルに逆向きの電圧が発生するということを意味しており、このことからコイルは、電流が流れるのを妨げる作用があると言われます。
電磁誘導とインピーダンスの関係
電流を妨げるということは、交流回路においてはインピーダンスを持つことと同じ意味になります。コイルのインピーダンスは周波数に比例して高くなります。
これを電磁誘導的な見方をすると、周波数が高くなって単位時間あたりの磁束の変化が大きくなると、より大きな電流の妨げになるということ意味します。
このように電磁誘導をベースに見るか、インピーダンスをベースに見るかによって表現方法は変わってきますが、現象としては同じことを説明しています。
コイルの用途
コイルは、電気回路における基本的な部品であるため用途としては限りなくありますが、ここでは代表的な用途を2つ紹介します。
電源変換回路
1つ目は、昇圧回路や降圧回路などの電源電圧を変換するための回路です。電源変換回路においては、コイルの逆起電力を発生させる性質が重要な役割を果たします。
例えば直流電圧を降圧するためのチョッパ回路においては、スイッチがONの場合には
電源電圧に従って負荷へ電流が流れ、スイッチがOFFになった場合にはコイルの逆起電力によって発生した電圧をもとに負荷へ電流を流しています。
出力電圧はスイッチのデューティー比(ONとOFFの比)によって決まりますが、OFFの期間中に負荷へ電流を供給するためには、コイルの逆起電力の働きが不可欠な回路となります。
昇圧チョッパ回路においても考え方は概ね同じです。
昇圧回路の場合は、スイッチがONの場合には赤線のループ経路でコイルに電流が流れ続け、スイッチがOFFになるとコイルは逆起電力によって電流を流し続けようとするため、ダイオードを介して負荷へ電流が流れていきます。
このようにチョッパ回路においては、コイルに逆起電力が発生することによって、あたかも電力を蓄えているように作用させて電圧の昇降圧を実現しています。
フィルタ回路
用途の2つ目はフィルタ回路です。フィルタ用途の場合には、コイルのインピーダンスが重要な役割を果たします。
例えばローパス型のLCフィルタにおいては、負荷に対してコイルを直列に、コンデンサを並列に接続します。
このときにフィルタに求められる役割は、負荷へ掛かる電圧を小さくすることですが、コイルは周波数に比例してインピーダンスが高くなり、反対にコンデンサは周波数に反比例してインピーダンスが低くなるため、負荷へ掛かる電圧は周波数が高くなるほど小さくなっていきます。
このフィルタ回路には、「ハイパス」「バンドパス」「ノッチ」などの種類がありますが、いずれの種類においてもコイルに求められる役割は同じです。
おわりに
コイルは磁界が絡んでくる部品なので、電気を学んできた方でも苦手意識を持っている方は多いかと思います。加えて、理論的に理解しようと思うと「微分」「積分」といった数学的な知識も必要となるため、さらに難易度が上がります。
そこで今回は、それらの細かなことは省略して、コイルの役割からコイルの用途を考える方法をお伝えしました。
コイルを使用する上で必要となる知識は、以下の記事で解説しています。
またトロイダルコイルと空芯コイルのそれぞれの設計方法も解説しています。
いずれのコイルも計算自体はそれほど難しくないので、コイルの自作にチャレンジしたい方は参考にしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。