コイルの等価回路モデルにおいて、コイルの損失にはいくつかの種類が存在すると紹介しました。
今回の記事では、このコイルの損失について深堀りして考えてみます。
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コイルの損失とは
コイルのコア材には磁性体が使用されています。
磁性体とは空気よりも大きな透磁率を持っている材料のことです。
コア材によく使われる材料としては、鉄、ニッケル、コバルトなどがあります。
これらの材料はすべて磁性、いわゆる磁石に引き寄せられる性質(透磁率)を持っています。
磁性体に磁界を印加したときの特性として「B-H特性」があります。
B-H特性は、ある磁界Hを掛けたときの磁束密度Bを表したものです。
コイルは電流(磁界)が流れるに従って、コア内の磁束が飽和し、透磁率が低下するため、B-H特性はヒステリシス特性を持つグラフとして表されます。
そしてこのヒステリシス特性を含めて、コア材には3つの損失要因「ヒステリシス損失」「渦電流損失」「残留損失」があります。
それぞれの損失について見てみましょう。
ヒステリシス損失
ヒステリシス損失は、B-H特性に起因するコア材の損失です。
コイルに電流が流れたときにコア材の内部には、磁束としてエネルギーが蓄えられます。
しかし、ヒステリシス特性を持つためエネルギーが0に戻しても、エネルギーをすべて返すことができません。
この返せなかったエネルギーがコア材の内部で「損失」として消費するエネルギーになります。
コイルに交流電流が流れる場合は、この現象が繰り返し生じることで、ヒステリシス損失として観測されます。
ヒステリシス損失は、B-H特性のカーブで囲まれる面積で表すことができます。
つまり、ヒステリシス特性の面積が大きいほど損失が大きいと言えます。
また、損失はヒステリシスループの回る回数にも比例するので、交流においては周波数に比例して損失が大きくなります。
渦電流損失
渦電流損失は、コア材に渦電流が流れることによって発生する損失です。
導電性を持ったコア材のコイルに電流を流すと、コア材の内部に渦電流が流れます。
渦電流が流れると、コア材の電気抵抗によって内部が発熱し、損失として現れます。
電気抵抗はコア材固有の特性ですが、コイルの製作時にひと工夫すると渦電流損失を低下させることもできます。
電磁鋼板のような板材の場合は、積層する板の間に絶縁するためのシートを挿入します。
絶縁層を挟むことで、コイルのコア材としては磁気抵抗が高くなり、渦電流が流れにくくなります。
金属粉体の場合は、金属粒子を樹脂でコーティングしてから焼き固めてコア材にすることで渦電流を流れにくくします。
渦電流が流れにくくなるため、渦電流損失が低下することを意味します。
残留損失
残留損失は実態としては非常にわかりにくいものです。
定義としては磁気の粘性によって生じるものとされています。
磁気粘性は、コア材内部の磁界Hと磁束Bの時間的なズレによって生じます。
つまり、磁界と磁束密度の位相のズレと解釈できます。
磁界と磁束密度の位相のズレは透磁率の変化にも関わるため、残留損失自体を測定することは不可能です。
そのため、ヒステリシス損失でもなく、渦電流損失でもないものをひと括りにして残留損失として扱うことが多いです。
また残留損失はその性質から、コイルの設計時に意図的に低減させることもできないと言われています。
おわりに
コイルの損失でよく使用するパラメータとしては「Q値」や「tanδ」があります。
Q値は回路設計でよく使用されるパラメータ、tanδはコア材の損失のパラメータとして登場します。
どちらのパラメータも今回紹介した3つの損失「ヒステリシス損失」「渦電流損失」「残留損失」をすべて含んだものになります。
そのため普段、損失の成分を分けて考える機会はなかなかありませんが、損失の内訳を知っておいて損はないと思います。
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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。