パスコンは、ICに電源を供給したり、ノイズを抑制する働きを持つことから、必要不可欠な部品として様々な回路で使用されています。
一方で実際にパスコンを使用するにあたっては、ただ単に接続すればいいというわけではなく、その役割をきちんと理解した上で最適な位置に配置する必要があります。
そこで今回は、そもそもパスコンとはどういうものかというところを深堀りし、なぜパスコンが必要となるのかを解説します。
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パスコンとは
パスコンという単語は「バイパスコンデンサ」を略したもので、高周波ノイズをバイパスさせる働きを持ちます。
このパスコンは、特定の種類のコンデンサを指しているわけではなく、ノイズをバイパスするために使用されるコンデンサを総称したものになります。
そのためパスコンと一括りにしても、「電解コンデンサ」や「セラミックコンデンサ」などいくつかの種類を組み合わせて使用されることもあり、用途に応じて適切な種類や定数を選択することが重要となります。
パスコンの役割
パスコンの役割としては、「ICの電源電圧を一定に保つ」「ICへ電流を供給する」「ICからノイズが流出するのを防ぐ」などと言われますが、これらは全て意味していることは同じです。
パスコンがない場合
例えば IC が高速で駆動している場合には、電源ラインに高周波電流が流れ、この高周波の電流と配線のインピーダンスによって、定電圧源とICの間で電圧降下が発生します。
ここでパスコンが無かったとすると、この電圧降下が直接ICの電源電圧の変動につながるため、ICが正常に動作しない可能性があります。
また仮に動作したとしても、負荷の駆動電流が足りないために信号の波形がなまったり、あるいはノイズが放射するなどのトラブルが発生することになります。
パスコンがある場合
一方でICの直近にパスコンが配置されていたとすると、コンデンサは周波数が高くなるほどインピーダンスが低くなるため、高周波電流がコンデンサから流れるようになり、電圧降下もほとんど発生しません。
そして負荷を駆動するにあたっては、コンデンサに必要十分な電荷が貯まっていれば信号の波形がなまることもなく、電流ループも小さくなるため外部へ放射されるノイズも非常に小さくなります。
このようにパスコンによって以下の3つの効果が得られます。
- 電源電圧の変動が抑制される
- 信号波形がきれいになる
- 放射ノイズが小さくなる
これらの効果はそれぞれ独立した効果ではなく、相互に関連して生まれる効果になります。
パスコンの容量
パスコンの容量は、データシートの推奨回路をそのまま採用すると方が多いと思います。
もちろんこの方法は間違ったものではありませんが、なぜこのコンデンサが使用されているのかについては、きちんと理解しておいたほうが良いです。
多くのデータシートでは、パスコンを複数個並列に接続し、さらにいくつかの定数が組み合わされた回路が掲載されています。
ここではその理由について考えてみます。
並列接続
コンデンサの等価回路は、抵抗、コイル、コンデンサが直列に接続した回路で表すことができますが、ここでは同じ定数の素子が並列に接続した回路で考えてみます。
抵抗とコイルは、並列に接続することによって「抵抗値」「インダクタンス」が 1/2 に低下します。一方でコンデンサは、並列に接続することで静電容量が2倍になります。
これはつまり、寄生成分の ESR と ESL がそれぞれ小さくなり、更には静電容量も大きくなるため、高い周波数まで低いインピーダンスが得られるようになります。
さらにこのときにコンデンサの定数を「10uF」「1uF」「0.1uF」「0.01uF」と4種類の定数を組み合わせたとすると、これらの合成インピーダンスは最もインピーダンスが低いコンデンサに引っ張られ、幅広い帯域で低いインピーダンスを得ることができます。
このようにコンデンサを並列に複数個接続し、さらには定数の異なるコンデンサを組み合わせることが、広い周波数帯で低いインピーダンスを得るための定石となります。
注意事項
パスコンを使用する上での注意事項は3つあります。
配線のインダクタンス
注意事項の1つ目は、パスコンをICの電源ピンの直下に接続することです。
コンデンサを並列に接続することでインピーダンスを下げたとしても、ICまでの電源パターンのインダクタンスが大きければ、このインダクタンスによって電源電圧が変動するため、電源ピンの直下にパスコンを接続する必要があります。
部品配置
注意事項の2つ目は、複数の定数のコンデンサを組み合わせて並列に接続する場合に、静電容量の小さいコンデンサほどICの近くに配置することです。
静電容量の大きいコンデンサは、高い周波数において定数の小さいコンデンサのインピーダンスに引っ張られるため、ESL が少々高くてもそこまで大きな影響を与えません。
一方で静電容量の小さいコンデンサは、ICから遠い位置に配置されていたとすると配線パターンのインダクタンスによって高い周波数で低いインピーダンスが得られなくなります。
そのためコンデンサの配置としては、静電容量の小さいものほどICの電源ピンに近い位置に配置する必要があり、反対に静電容量の大きいコンデンサは少々遠い位置に配置しても
そこまで大きな問題にはなりません。
部品サイズ
注意点の最後の3つ目は、コンデンサの部品サイズです。
これは特に静電容量の小さいコンデンサにおいて重要となることですが、同じ定数のコンデンサでも部品サイズによって高周波におけるインピーダンス特性が異なります。
例えば部品サイズの異なる 1000pF のコンデンサでインピーダンス特性を比較すると、部品サイズが小さいほど高周波におけるインピーダンスが低くなります。
これは寄生インダクタンス ESL の違いによる影響で、部品サイズの小さいものほど ESLが小さくなるため、高周波のインピーダンスが低くなります。
そのためパスコンの性能という観点では、部品サイズが小さいものが好ましいと言えます。
おわりに
今回はパスコンの「役割」「容量」「注意事項」について解説しました。
いずれも回路を設計する上では非常に重要なことですが、とりわけ パスコンの役割 についてはきちんと自分自身で納得できるまで噛み砕いて、どのような現象が起こっているかをイメージできるようになることが大切です。
そしてパスコンによる高周波電流の流れがイメージできるようになれば、あとはコンデンサの高周波での振る舞いをもとに「静電容量」「配置」「サイズ」など1つずつ対処していけば、おおよそどんなICであってもデカップリング回路の設計方針は定まってくるはずです。
はじめのうちは難しく感じるかもしれませんが、回路設計する場合にはぜひ一度自分自身で考えてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。