無料ウェビナー はじめてのGbps超 高速伝送のキホン 2026年10月2日(金)14:00-16:30

この記事では、高速信号のシグナルインテグリティ(SI)評価と EMC 評価が同じ現象を別の軸で見ていることを解説します。

シグナルインテグリティの評価手順

EMC 技術者は、現象を周波数軸で捉えることがほとんどです。これに対して回路設計者は時間軸で解析し、その対処も時間軸上で行います。

そのため同じ問題に対して、一方は周波数軸で、もう一方は時間軸で対処するという場面に出くわします。最終的な結論は一致しますが、そこへ至るアプローチが違うため、相手のやっていることを自分事として捉えにくくなります。

ここではアイパターンを対象として、高速信号を測定する計測器が軸ごとにどう分かれているかを整理します。

時間軸と周波数軸の計測器

Gbps 級の高速デジタル差動信号を評価する計測器は、観測する軸で 2 つに分かれます。

  • 時間軸:オシロスコープ、時間領域反射(TDR)計測器、ビット誤り率計測器(BERT)
  • 周波数軸:4 ポート VNA
図1 同じ 1 つの信号を、時間軸と周波数軸で見る

図1 同じ 1 つの信号を、時間軸と周波数軸で見る

時間軸の計測器では、アイパターン、ジッタ、立上り時間、伝送線路のインピーダンス不連続点、ビット誤り率を測定します。

周波数軸の VNA では、ミックスドモード S パラメータに変換して、差動挿入損失、差動反射損失、差動からコモンモードへの変換量、クロストークを測定します。

この 2 つは対立するものではなく、評価項目によって使い分けるものです。

評価の順序

高速シリアル伝送の物理層評価では、3 つの観点で評価を実施します。

1 つ目は伝送線路の受動特性です。VNA や TDR で、配線・コネクタの S パラメータと特性インピーダンスを測定します。

2 つ目は送信器の出力波形品質です。被測定機器をテスト・フィクスチャ経由で広帯域オシロスコープに接続し、規定のテストパターンを出力させて、アイパターン、ジッタ、差動電圧振幅、スルーレートを測定します。

3 つ目は受信器の耐力です。BERT からジッタやノイズを重畳したキャリブレーション済みの信号を入力し、ループバックでビット誤り率を測定します。

必要な周波数帯域は、測定対象の信号の伝送レートで決まります。

伝送レート 5 Gbps の USB 3.1 Gen 1 なら基本周波数は 2.5 GHz で、波形を忠実に再現するには第 5 次高調波の 12.5 GHz までを取り込む必要があります。そのため計測器やケーブルには、これより周波数帯域が高いものを使用する必要があります。

TDR の 2 つの測定方法

ちなみに TDR は VNA でもオシロスコープでも測定できますが、得られる情報の質が異なります。

VNA は狭帯域の IF 検波と逆フーリエ変換を用いるため、ダイナミックレンジが 100 dB 超と大きく、複素 S パラメータを精密に測定できます。ただし、キャリブレーションの手間がかかります。

一方で、オシロスコープは内蔵のステップパルスで直接ステップ応答を測定するため、ダイナミックレンジは 40〜60 dB にとどまります。その代わり波形の更新が速く、キャリブレーションも簡易な基準接続で済むため、不連続点の位置を直感的に特定する用途に向いています。

アイパターンの判定

アイパターンは、高速デジタル信号をビット周期ごとに切り出して重ねたものです。中央に開いた空間が目の形に似ていることからアイパターンと呼ばれ、受信側が信号を正しく識別できるかどうかを判定します。

図2 アイパターンの開口とマスク

図2 アイパターンの開口とマスク

判定にはマスクテストを使います。規格で決まったアイの枠に波形が接触すれば不合格、接触しなければ合格となります。

そして、合格・不合格だけでなく、アイの開口の大きさからどれだけ余裕があるかも読み取れます。高さが電圧マージン、幅が時間マージンです。

開口を狭める 2 つの要因

アイの高さと幅、すなわち電圧マージンと時間マージンはそれぞれ別の要因で変化します。

電圧マージンを狭めるのは、符号間干渉(ISI)です。ISI は、伝送線路の帯域制限によって過去のビットの応答が後続のビットに残る現象です。ビット中央での電圧が直前までのビットの並びによって変わるため、ビット周期ごとに重ねると到達点が上下にばらつき、アイの開口が縦に狭くなります。

一方で時間マージンを狭めるのは、ジッタです。ジッタは矩形波の立上り・立下りのタイミングが揺らぐ現象で、ビット周期ごとに重ねると遷移の位置がばらつき、アイの開口が横に狭くなります。

つまり、アイパターンの開口が縦方向につぶれていれば ISI、横方向に狭まっていればジッタが主な要因ということです。

評価基準の違い

SI と EMC は、別々の問題ではありません。この理由は、配線やレイアウトの作りがそのまま信号波形の歪や放射ノイズの発生源になるからです。

ただし一方の評価基準を満足すれば、もう一方の評価基準も満足できるというような簡単な関係でもありません。これは、アイパターンと EMC で評価の目的と基準が異なるためです。

図3 同じ基板の同じ信号でも、基準が違えば判定は分かれる

図3 同じ基板の同じ信号でも、基準が違えば判定は分かれる

ここでアイパターンの規格は USB-IF や PCI-SIG といった業界団体が定めています。ここでの目的は、受信端のビット誤り率と機器間の相互接続性を守ることであり、その基準としてマスクによる評価基準が適用されています。

一方で、EMCは CISPR や FCC といった国際規格や法規制によって定められています。これは無線通信や周囲の機器を電磁妨害から守るためのもので、そのための基準がエミッション試験の限度値です。

つまり目的が異なる 2 つの評価項目を技術的に整合させる要素はどこにも存在しないということです。

したがって技術的には両者が相互に関係していても、一方に合格して他方に不合格になることが起こりえます。

これは立上り時間の観点で顕著で、立上り時間を速くすれば時間マージンが確保されて SI には有利に働きますが、一方で高調波が増加することで放射ノイズには不利に働きます。

原因の切り分け方

高速信号によって生じる放射ノイズの原因は、4 つに分けられます。それぞれでスペクトルへ影響が異なるため、測定結果からある程度は原因を絞り込むこともできます。

  • 立上り時間
  • 反射
  • スキュー
  • 構造的なモード変換
図4 スペクトルの形と疑う原因

図4 スペクトルの形と疑う原因

立上り時間は特定の周波数ではなく、広帯域でノイズレベルを上昇させます。立上り時間 \(t_r\) が速くなるほどニー周波数 \(f_B\) が高くなり、それによって放射ノイズも帯域全体で増加します。

\[f_B = \frac{1}{\pi t_r}\]

反射は特定の周波数において、鋭いピークを生じさせます。このピーク周波数は、伝送線路の長さと波長の関係で決まります。

スキューは放射ノイズに周期的な山と谷を生じさせます。最初の山が出る周波数 \(f_{skew}\) は、差動ペアの 2 本の到達時間の差 \(\Delta t\) によって決まります。

\[f_{skew} = \frac{1}{2\Delta t}\]

構造的なモード変換は、スペクトルに固有の形がありません。上の 3 つに当てはまらない帯域の持ち上がりがあれば、これを疑います。モード変換の原因は、リターンパスの不連続や配線から見たグランドの非対称で、VNA でモード変換利得 \(S_{cd21}\) を測定して確かめます。

おわりに

今回は SI と EMC が同じ現象を時間軸と周波数軸で別々に評価していることと、アイパターンから放射ノイズの原因を探る方法について解説しました。

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今回は以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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