この記事ではGaN搭載USB充電器のノイズ性能(EMI性能)を検証しています。
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検証対象
まずはノイズ性能を比較するGaN搭載のUSB充電器について紹介します。
Innergie C6(GaN)60W
1つ目はデルタ電子から「Innergie」ブランドとして販売されている「C6」です。
GaN搭載の60Wの充電器で、非常にシンプルな1ポートのUSB充電器といった感じです。
Amoner (GaN) 65W
2つ目は Amazonで2000円程度で販売されている格安の GaN搭載 USB充電器です。
スペックについては1つ目の C6と同じく、1ポートの USB充電器で65WのPD出力に対応しています。一般的な GaN搭載の USB充電器よりもかなり安いため、このあたりがノイズ性能にどれほど影響を与えているのかが気になる商品です。
VnBn (GaN) 65W
3つ目は Amazonで 3000円台で販売されている、3ポート出力が可能な USB充電器です。
タイプCが2ポート、タイプAが1ポート備わっており、合計で65Wが出力可能なモデルです。今回の検証では条件を一定とするために 1ポート出力での検証しか実施しませんが、ポート数の違いがノイズ性能にどのような影響を与えるのかを確認してみます。
DIGIFORCE (GaN) 65W
4つ目も Amazonで 3000円台で販売されているGaN搭載の USB充電器です。
タイプCが1ポート、タイプAが1ポートの計2ポートで構成されており、ポート数が違いがノイズ性能にどのような影響を与えてるのかを検証してみます。
検証方法
電子機器のノイズ性能は「放射ノイズ」と「伝導ノイズ」の2つの観点から評価されます。いずれも電波暗室やシールドルームといった特殊な部屋で試験が行われます。
試験場所
今回は検証にあたって京都府の星和電機さんの電波暗室を利用しました。
試験項目
放射ノイズは電子機器から電磁波として放射されるノイズを評価するもので、放射エミッション試験とも呼ばれます。
測定対象となる電子機器に対して10m離れた位置にアンテナを設置して、電子機器から放射されるノイズを測定します。
伝導ノイズは電子機器の電源線に流れているノイズを評価するもので、伝導エミッション試験とも呼ばれます。
伝導エミッション試験ではLISNを用いて電源線に流れるノイズを測定します。
周波数帯
この2つの試験は試験対象となる周波数帯が異なります。
放射エミッション試験は 30MHz ~ 1GHzが対象となっており、ここには FMラジオ、地デジ放送、700~900MHz帯の携帯電話の周波数帯などが含まれています。一方で伝導エミッション試験は150kHz~30MHzの周波数帯が対象で、AMラジオやアマチュア無線などの周波数帯が含まれています。
検証条件
USB充電器は電子負荷と組み合わせて定電流モードで動作させます。
動作条件についてはUSB-PDの 20Vの状態で、かつ電流値が 3A(60W)で動作するようにしています。また電子負荷から放射されるノイズの影響を低減するために、電子負荷の電源ケーブルにフェライトコアを取り付けています。
なお放射エミッション試験では、周辺機器との組み合わせや動作モード、さらにはケーブルの配置方法によってレベルが大きく変動することがあります。
そのため今回の検証結果はあくまでもこのセットアップにおける測定値ということであって、商品の仕様として規定されているものではないということには留意してください。
適用規格
今回は限度値として CISPR32という規格を引用します。この規格は一般的な家電機器に適用される限度値です。
Class A と Class Bの違いについては、工業環境向けと家庭環境向けという区分で限度値が分かれており、家庭環境向けの Class Bの方が厳しくなっています。
今回の USB充電器については家庭環境向けの商品であるため、Class Bの限度値を基準にしてノイズレベルの高い・低いを判断します。
放射エミッション試験
電子負荷単体
電子負荷の影響を確認するために、電子負荷単体で動作させた場合のノイズ性能を確認します。
すると 100~200MHzあたりでCISPR32 ClassBの限度値を超えるノイズレベルが放射されていることが確認できます。そのため今回の検証においては 100 ~ 200MHzあたりで観測されるノイズについては除外して考えます。
Innergie C6(GaN)60W
電子負荷が放射している 100~200MHzを除いて、すべての帯域で Class Bの限度値を下回っています。ちなみに一般的なスイッチング電源においては、電源線がアンテナとして作用することで垂直偏波のレベルが高くなることが多く、この USB充電器でも同様の傾向が確認できます。
Amoner (GaN) 65W
このUSB充電器は垂直偏波のレベルが限度値を大きく上回っており、特定の周波数においては Class Aの限度値すら上回る結果となっています。これはノイズ性能という観点から見ると非常に悪い結果で、そもそも商品として販売してよいのか怪しいレベルです。
VnBn (GaN) 65W
このUSB充電器は電子負荷のノイズを除いて、すべての周波数帯で限度値を下回るノイズレベルとなっています。家庭用として問題ないレベルのノイズ性能と言えます。
DIGIFORCE (GaN) 65W
このUSB充電器もノイズ性能については問題ないレベルと言えますが、他の USB充電器と違って 400MHzあたりでノイズレベルが上昇しています。
一般的なスイッチング電源においては、この高周波ノイズのレベルが高くなることは少ないですが、高速スイッチング可能なGaNを搭載しているということでそのあたりが影響していると考えられます。
比較
放射エミッション試験の垂直偏波の結果を比較すると、価格の安いUSB充電器(Amoner)以外は家庭環境向けの限度値 Class Bを満足する結果となっていました。
一方で格安のUSB充電器については価格相応の性能といった具合に、限度値を大幅に上回るノイズ性能であることが明らかになりました。
伝導エミッション試験
伝導エミッション試験では電子負荷などの周辺機器が測定結果に与える影響が小さいため、単純に USB充電器の電源線に流れるノイズレベルを測定します。
測定にあたっては、電源線の長さを調整するためにケーブルを束ねて配置しています。
Innergie C6(GaN)60W
放射ノイズと違って 1MHz以下の周波数帯で Class Bの限度値を上回るノイズレベルを示しています。
このあたりは試験条件によっても変わってきますが、少なくとも今回のセットアップではClass Bの限度値をやや上回るノイズレベルを示しているということで、 AMラジオなどに対して電磁的に干渉してしまう可能性があります。
Amoner (GaN) 65W
こちらは放射エミッション試験から引き続き、Class Aの限度値大きくを上回るノイズレベルを示しており、完全にノイズ対策の部分を簡略化してコストカットを図っているということがわかります。
ちなみに 90dBuVを超えるようなノイズレベルを示していますが、これくらいレベルの高いノイズを周辺に拡散しているとなると、近くで使用している電子機器が誤動作する可能性もあります。
VnBn (GaN) 65W
この USB充電器は、放射エミッション試験では Class Bの限度値を下回っていましたが、伝導エミッション試験では 500kHz ~ 1MHzあたりで Class Aの限度値を超えるレベルを示しています。
この理由としては、おそらく充電器内部のフィルタ回路を放射エミッション試験の対象となる周波数向けにチューニングしているためと考えられます。
DIGIFORCE (GaN) 65W
この USB充電器は Class Aの限度値は何とか下回っているものの、Class Bの限度値に対しては200kHz ~ 2MHzの周波数帯で大きく上回る結果となっています。
そのためラジオの受信機の近くでこの USB充電器を使ったとすると、ノイズが乗って聞こえなくなることが想定されます。
比較
伝導エミッション試験の結果を比較すると、全ての USB充電器ともClass Bの限度値を上回る結果となっていましたが、その中では Innergieの USB充電器が最もノイズレベルが低い結果となっています。
まとめ
今回は GaN搭載 USB充電器のノイズ性能を検証しました。
実際にUSB充電器のノイズ性能を測定してみると、充電器ごとにノイズレベルが大きく異なるということが理解できたかと思います。
今回検証した中では Innergieの USB充電器が最もノイズ性能に優れていました。
デルタ電子製ということで、安心・安全に使用できる点においてはおすすめできるGaN搭載 USB充電器なので、興味のある方はチェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。