この記事では、ノイズフィルタを効果的に使用するために重要となる「向き」と「入出力インピーダンス」の関係について解説しています。
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入出力インピーダンスとは
ノイズフィルタにおける入出力インピーダンスは「商用電源のインピーダンス」と「電子機器のインピーダンス」のことを指します。
電子機器内部にノイズ発生源があると仮定すると、電子機器のインピーダンスが「入力インピーダンス」、商用電源のインピーンダンスが「出力インピーダンス」と定義されます。
減衰特性と入出力インピーダンス
ノイズフィルタの性能を表す指標として減衰特性があります。
この減衰特性は入出力インピーダンスの大きさによって変化する性質を持ちます。つまり電子機器の型式や電源系統の接続先によって減衰特性が変化するということです。
そのためデータシートでは一定の条件で性能を比較できるように、入出力インピーダンスが50Ωの条件で減衰特性が規定されています。
しかしながら、実際の設置環境では必ずしも入出力インピーダンスが50Ωではないため、いざノイズフィルタを使ってみるとデータシートどおりの性能が得られないという現象が発生します。
入出力インピーダンスの影響
ここではコンデンサとコイルによって構成された2次のLCフィルタをもとに、入出力インピーダンスの影響を確認してみます。部品定数についてはコンデンサが 0.1uF、コイルが 0.1mHとしています。
CLフィルタ(コンデンサ→コイル)
入出力インピーダンスの組合せは、入出力が50Ωの条件に加えて、0.1Ωの低インピーダンスと1kΩの高インピーダンスの組合せで比較してみます。
シミュレーションを実行すると、入出力インピーダンスによって減衰量が大きく異なることがわかります。
減衰量を比較すると入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低い条件(黄緑)が最も減衰量が大きく、一方で反対の条件の入力インピーダンスが低くて、出力インピーダンスが高い条件(赤線)は減衰量が非常に小さいです。
このように同じ回路であるにも関わらず、入出力のインピーダンスが違うだけで減衰量に非常に大きな差が生じてしまいます。
LCフィルタ(コイル→コンデンサ)
この入出力インピーダンスの影響はノイズフィルタの向きを反転する、つまりコンデンサとコイルの位置を入れ替えるとその関係性が一変します。
向きを反転した回路で減衰特性を比較すると、入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高い条件(赤線)の減衰量が最も大きくなります。
一方で入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低い条件(黄緑)は最も減衰量が小さいです。これは向きを反転する前の結果と比較して優位関係が逆転した結果となっています。
このことからノイズ対策におけるノイズフィルタの最適な回路構成は、入出力インピーダンスの条件によって変化することがわかります。
検証対象
実際のノイズフィルタを使って入出力インピーダンスと向きの関係性を検証します。ここではTDKラムダ製の2種類のノイズフィルタを使用します。
RSENシリーズ
1つ目は RSEN-2006です。
RSENシリーズのノイズフィルタは、コモンモードノイズに対してコンデンサとコイルが1つずつ実装された1段のノイズフィルタです。RSEN-2006の回路定数はコモンモードチョークコイル(CMC)が10.6mH、Yコンデンサが 4700pFです。
ノイズフィルタの種類の違いは、以下の記事で解説しています。
RSHNシリーズ
2つ目はRSHN-2006です。
RSHNシリーズはCMCが2つ実装されている2段のノイズフィルタです。RSHN-2006の回路定数は4.2mHのCMCが2つと4700pFのYコンデンサが実装されています。
この回路構成の異なる2種類のノイズフィルタで、入出力のインピーダンスに対してどのような影響があるのかを確認してみます。
減衰特性の測定方法
減衰特性の測定には「NanoVNA」を使用します。
ここではコモンモードノイズの減衰量を測定するために、電源ライン間を電線でショートしてその電線をワニ口クリップを使ってNanoVNAと接続しています。
GND側については、ノイズフィルタを接地するためにアルミ板と接続しています。このアルミ板はノイズフィルタのFGと接触させて、コモンモードノイズをバイパスさせるように作用します。
FGとアルミ板は低いインピーダンスで接続することが重要で、実際に使用する場合はノイズフィルタをネジ止めして面接触させます。(今回は簡易的な実験なので銅箔テープを使用しています)
入出力インピーダンスと向きの関係【実験】
RSENシリーズ
正方向(3,4番 → 1,2番)
まずは3番、4番の端子から1番、2番の端子に向かって流れる場合の減衰特性です。
青線の50Ω系の減衰量と比較して、入出力インピーダンスの組合せ方によって減衰量が大きく変化していることがわかります。また入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高い条件(赤線)は5MHzで反共振が発生することで減衰量が大幅に低下しています。
逆方向(1,2番→ 3,4番)
つぎにノイズフィルタの向きを反転して、減衰特性を測定します。
すると減衰特性の傾向もガラッと変わり、入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高い条件(赤線)の減衰量が最も大きくなっています。
この逆方向のときの回路はコイルが前段に配置された回路構成で、回路シミュレーションにおいても同様の傾向を示していたため理論的にも正しい結果と言えます。
現場での活用方法
RSENシリーズのように向きによって回路構成が変化する場合、向きと入出力インピーダンスの組み合わせによって減衰特性が大きく変化します。
そのためノイズ対策の現場で減衰量が物足りないと感じたら、ノイズフィルタの向きを反転してみることが有効なノイズ対策の手段になりえます。
RSHNシリーズ
正方向(3,4番 → 1,2番)
RSHNシリーズも入出力インピーダンスによって減衰量に差が生じます。
しかしRSENシリーズのような反共振は発生しません。そのため入出力インピーダンスによって特定の周波数で減衰量が大きく変化することはなく、単純に減衰量の大きさだけが変化します。
逆方向(1,2番→ 3,4番)
RSHNシリーズも入出力の向きを入れ替えて減衰特性の変化を確認します。
すると向きを入れ替えたにもかかわらず、減衰量がほとんど変化していないことがわかります。
この理由はRSHNシリーズの回路構成が、コモンモードノイズに対してコイル(CMC)、コンデンサ、コイル(CMC)の順で配置されている、つまり入力と出力のどちらから見ても回路構成が同じになっているためです。
つまりノイズフィルタの外側から見ると向きが入れ替わっていますが、内部の回路的に見れば全く同じ回路になっているということです。回路が同じならば減衰量に変化がないというのも当然です。
現場での活用方法
RSHNシリーズのような2段のノイズフィルタの場合、向きによって回路構成が変わらないものがあります。
そのため実際にノイズフィルタを使用するときには、どのような回路構成のノイズフィルタなのかをきちんと確認した上で使用することが大切になります。
おわりに
今回はノイズフィルタの向きと入出力インピーダンスの関係について解説しました。
今回の検証では入出力インピーダンスによって減衰量に差が生じていましたが、これは実際にノイズフィルタを使用したときにデータシートどおりの性能が得られないことにつながっています。
そのためノイズフィルタを使用するときには、データシートに示された減衰量はあくまでも参考として、実際に機器に組み込んでみて減衰量を確認することが大切です。またそこで思ったような性能が得られなければ、ノイズフィルタの向きを反転することも有効な手段の1つとなります。
ぜひ色々なパターン(型式、向き)でノイズフィルタの使い方を検討してみてください。なおノイズフィルタの選び方については、以下の記事で解説しています。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。