方向性結合器は、普段目にする機会が少ない部品かもしれませんが、高周波の計測においては無くてはならない部品です。
そこで今回は、そんな方向性結合器の「原理」「特性の定義」「回路方式」について解説します。
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原理
方向性結合器は、伝送線路に流れる進行波と反射波のエネルギーを別々に取り出すことができるもので、4ポートの部品として表されます。
この図の場合、ポート1が信号の入力ポート、ポート2が信号の出力ポート、ポート3が結合ポート、ポート4をアイソレーションポートと呼びます。
それぞれのポートは、ポート1へ信号がが入力されると伝送線路上でわずかに減衰しながらポート2へと流れていきます。
このときに伝送線路に平行するもう一方の伝送線路には、電磁的な結合によって進行波のエネルギーの一部がポート3へと出力されます。
反対にポート4の方は、ポート3と同じように進行波のエネルギーが出力されるように思いますが、理想的な方向性結合器においてはこのポート4の出力は 0 になります。
このように進行波のエネルギーがポート3には出力され、ポート4には出力されないというのが「方向性」と呼ばれる所以です。
ちなみに信号の入出力を入れ替えてポート2から信号を入力した場合には、電磁的な結合によってポート4に信号の一部が出力され、ポート3の方へは信号が出力されません。
これを進行波と反射波に当てはめて考えると、ポート3とポート4にそれぞれ別の計測器に接続すれば、伝送線路上の進行波と反射波を分離して測定できるということになります。
特性の定義
方向性結合器は、進行波と反射波を別々に取り出すことができますが、このときにどれくらい無駄なく、かつ高い精度で取り出せるかが性能としては重要となります。
その性能を表すものに「挿入損失」「結合度」「アイソレーション」「方向性」の4つの特性があります。
挿入損失
挿入損失は、ポート1からポート2へ伝送線路上を通過する時の損失を表しており、その大きさは L = -10 log10 (P2/P1) で表されます。
方向性結合器の場合は、基本的には挿入損失が小さい方が好ましいですが、平行する伝送線路に一部のエネルギーが結合して漏洩するため 0 にはなりません。
結合度
結合度は、平行する伝送線路にどの程度エネルギーが結合するかを表しており、ポート3に出力される電力P3をもとに C = -10 log10 (P3/P1) で表されます。
この例の場合は進行波の電力を取り出すわけですが、結合度が低いと計測器で測定できないため測定対象の周波数帯において高い結合度を持つことが重要です。
一般的な用途においては -20dBあたりが1つの目安として使われることが多いです。
アイソレーション
アイソレーションは、結合したエネルギーがポート4の方へ伝わる大きさを表しており、I = -10 log10(P4/P1) で表されます。
ポート4からは、理想的には結合したエネルギーが出力されないはずですが、実際の方向性結合器ではある程度の大きさの漏れたエネルギーがポート4から出力されます。
ポート4に漏れるエネルギーが大きいと、進行波のエネルギーがポート3とポート4のどちらからも出力されることになり、そのことで進行波と反射波の分離の精度が下がるため、アイソレーション特性は小さい方が好ましいです。
方向性
そして最後の方向性は、結合度とアイソレーションをもとにどれほど進行波と反射波を分離できるかを表したもので D = I – C で表されます。
先ほどまでの説明の通り、結合度が高く、アイソレーションが小さいほど方向性が高くなります。
この方向性は、方向性結合器にとって最も重要な特性です。
ちなみにそれぞれの特性を表すアルファベットは、英語の頭文字を取ったものです
- 挿入損失は「Insertion Loss」の Loss の L
- 結合度は「Coupling Factor」の C
- アイソレーションは「Isolation」の I
- 方向性は「Directivity」の D
これら4つの特性は、全てとは限りませんがデータシートには周波数範囲や入力電力などと並んで記載されているので、その意味についてはきちんと理解しておくと良いかと思いまします。
回路方式
方向性結合器は、数100MHzを境として「集中定数型」と「伝送線路型」に回路方式が分かれます。(この分類方法は正式な呼び方ではありませんが、便宜上このように呼びます)
ここまで方向性結合器は、伝送線路上のエネルギーが平行する伝送線路上に結合し進行波と反射波を分離すると伝えてきましたが、これはいわゆる伝送線路型と呼んでいるものです。
この伝送線路型においては、結合の度合いは波長 λ に対して平行する伝送線路の線長が λ / 4 となったときに最も結合度が高くなります。
周波数が高い場合には波長が短くなるため、サイズを小さく作ることができて非常に良いのですが、一方で低い周波数をこの伝送線路型で実現しようと思うと、非常に長い伝送線路が必要となるためあまり現実的な方法とは言えません。
そのため 100MHz 以下の低い周波数に対しては、伝送線路が平行している方式ではなく、コイルを使ってエネルギーを結合させる方式が取られます。
この例では、伝送線路に直列に挿入されたコイルと伝送線路とGND間に挿入されたコイルがそれぞれ「電流センサ」と「電圧計」として働き、それらを合成することで進行波の電力を取り出します。
この集中定数型では、コイルの巻数を増やすことで低い周波数で結合度を高くすることができ、伝送線路の長さは関係なくなります。
ただし周波数が高い領域では、コイルが自己共振の影響で誘導性から容量性に変わってしまうため、周波数が高くなるに従って方向性が低下する傾向にあります。
ちなみに伝送線路型も分布定数的に見ればコイルとコンデンサによる結合として表すことができ、その等価回路をもとに例えば広帯域化を図られることもあります。
また伝送線路の形状も基板上に構成されるマイクロスリップラインに限らず、導波管や同軸ケーブル状のものなど使われる周波数帯によってその形態が異なります。
おわりに
今回は方向性結合器の「原理」「特性の定義」「回路方式」について解説しました。
方向性結合器は、例えばEMC試験においては、イミュニティ試験の際に注入電圧をコントロールするためにパワーアンプとアンテナ間、あるいはパワーアンプとCDN間に入れて使用されています。
普段あまり目にする機会は少ないかもしれませんが、高周波の測定において必要不可欠な部品なのでぜひともその働きや特性について理解しておいてください。
方向性結合器をはじめとして高周波の部品については、実際に現場で使ってみてその働きを理解することが多いですが、これらの部品は高価なものが多く、いざ使ってみて壊れたとなるとその後の始末が大変です。
そのため使用するにあたっては、まず基礎となる知識を習得することが非常に重要です。
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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。