放射エミッション試験では、金属筐体を使用して電磁波シールドすることがあります。
そこでこの記事では、電磁波シールドについて「原理」と「シールド効果の計算方法」について解説します。
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電磁波シールドとは
シールドには3つの種類があります。
- 静電シールド
- 磁気シールド
- 電磁波シールド
このうち「静電シールド」と「磁気シールド」は、直流や低周波の電界や磁界に対するシールドを表しています。
一方で、ノイズ対策のときに利用するシールドは「電磁波シールド」です。
電磁波シールドの性能
電磁波シールドの性能は「シールド効果(Shield Effective)」と呼ばれており、電界と磁界それぞれに対して求めることができます。
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一般的なシールド効果は、対向した2つのアンテナに対して、シールド材を挟んだ場合と挟まない場合のレベルを測定し、そのレベルの比を「シールド効果」として求めます。
シールド効果の測定方法としては「KEC法」や「アドバンテスト法」が有名です。
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シールド効果はレベルの比であるため「デシベル(dB)」で表され、ノイズ対策に使用するための目安としては、30dB以上が必要と言われています。
シールド効果 | 効果 |
---|---|
10dB以下 | ほとんど効果なし |
10~30dB | 最小限の効果 |
30~60dB | 平均的(携帯電話圏外レベル) |
60~90dB | 平均以上 |
90dB以上 | 最高水準 |
シールド効果を比率(パーセンテージ)で表すと以下のようになります。
- 20dB ⇛ 90%シールド
- 40dB ⇛ 99%シールド
- 60dB ⇛ 99.9%シールド
デシベルの計算方法は、以下の記事でわかりやすく解説しています。
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シールドの原理
電磁波シールドの式として有名な「シェルクノフの式」によると、シールド効果は3つの損失によって生まれるとされています。
- Reflection loss:反射損失
- Absorption loss:吸収損失
- Multiple reflection correct factor:多重反射補正
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シェルクノフの式では、それぞれの損失を加算することで、シールド材が有するシールド効果を算出します。
Shield Effect [dB] = R [dB] + A [dB] + M [dB]
反射損失
反射損失Rは、空間とシールド材との反射係数Γによって決まります。
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反射係数については、以下の記事で詳しく解説しています。
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伝送線路の場合は特性インピーダンスを50Ωで計算しますが、遠方界のシールド効果の場合は377Ωとなります。(近傍界と遠方界については以下の記事で説明しています)
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シールド効果は、反射係数が大きいほどシールド効果が高くなります。
シールドの材質
特性インピーダンスZoと比較してシールド材のインピーダンスZが低い場合に、反射係数は大きくなります。
つまり、金属などの導電率の高い材料ほど高いシールド効果が得られるということです。
ちなみに金属同士でも導電率に違いがあり、シールド材としては比較的導電率が高い銅やアルミの箔がよく使用されます。
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吸収損失
吸収損失Aは、シールド材に電磁波が入射したときに誘導電流が流れることで発生する損失です。最もイメージしやすいものがコイルやモーターの解析で出てくる「渦電流損」です。
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渦電流損失
吸収損失は、金属の電磁波の浸透の深さを表す「表皮効果」とつながります。
表皮効果とは(Wikipediaより)
表皮効果(ひょうひこうか)は交流電流が導体を流れるとき、電流密度が導体の表面で高く、表面から離れると低くなる現象のことである。周波数が高くなるほど電流が表面へ集中するので、導体の交流抵抗は高くなる。
これを「吸収損失」と読み替えると、周波数が高くなるほど渦電流による吸収損失が大きくなり、シールド材のシールド効果が高くなると解釈ができます。
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吸収量
入射する電磁波の周波数を f (Hz)、材料の厚み、導電率、透磁率をそれぞれt (m)、σ (S/m)、µ (H/m)とすると、次式で表されます。
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前述の通り、周波数(の平方根)に比例して吸収損失が大きくなることがわかります。
トランスで磁界シールドするために「ショートリング」を利用するのも、この渦電流によって吸収損失を発生させるシールド対策です。
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多重反射補正
多重反射補正Mは、シールド材内部に侵入した電磁波の一部が境界で反射し、それが複数回繰り返すうちに外部に漏れ出てしまう現象のことです。
ただし、シールド効果として積極的に利用するものではありません。
シールド効果は本来、単発の電磁波に対するシールド性能を表します。しかし、「多重反射」が発生すると、実際のシールド効果よりも低いシールド効果に見えてしまします。
そのため多重反射の影響を排除するために補正を行う必要があり、多重反射補正Mは、厚みt(m)、表皮効果δ、波長λ(m)で求めることができます。
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とはいえ、現実的には多重反射の影響は小さいため、シールド効果を計算する場合には無視して考えることが多いです。
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おわりに
シェルクノフの式をもとにシールドの定義や原理について解説しました。
実際にシールド対策する場合は、金属筐体で囲ってしまうだけなのであまり難しく考える機会は少ないですが、なぜシールドできるのかを理解しておくことは重要です。
電磁波シールドに関しては「初めて学ぶ電磁遮へい講座」が最も丁寧に解説されています。
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単なる電磁波シールドだけでなく、発展的なシールド方法も紹介されているので、ノイズ対策するときに何かヒントを掴めるかもしれません。
またシールドに関しては、iNarte資格試験でもよく出題されます。そのため、手元に置いておくと安心できる1冊と言えます。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。