高周波回路

スタブでインピーダンスマッチング

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オープンスタブやショートスタブは、一見すると途中で途切れたただの伝送線路に見えますが、高周波においてマッチング回路やフィルタ回路としてよく使用されています。

そこで今回は、マッチング回路を例題としてオープンスタブとショートスタブのそれぞれの役割とマッチング方法について解説します。

動画はコチラ↓

 

スタブとは

スタブというのは、伝送線路に対して並列に接続された切りっぱなしになった伝送線路のことで、その先端が開放されている場合は「オープンスタブ」、GNDに短絡されている場合は「ショートスタブ」と呼ばれます。

このオープンスタブとショートスタブは、分布定数回路として扱う領域において1つの素子として機能するという特徴を持ちます。

 

 

オープンスタブの特徴

オープンスタブは、先端が開放されているということで ∞ Ω の負荷が接続された回路と考えることができます。

そしてこの回路の入力インピーダンス Zin は、負荷のインピーダンス ZL = ∞ なので

Zin = -j Z0 cotθ となり

オープンスタブの長さに相当する θ によって、入力インピーダンスが変化します。

θ を 0 から少しずつ大きくしていくと、対象とする周波数の波長に対して θ<λ/4 (90°)のときにはコンデンサとして機能し、θ>λ/4 (90°)のときにはコイルとして機能します。

つまりオープンスタブの長さを変えることで、コイルやコンデンサの代わりとして使えるということですね。

 

ショートスタブの特徴

ショートスタブは、先端がGNDに短絡されているということで、こちらは 0Ωの負荷が接続された回路と考えることができます。

このショートスタブは、負荷のインピーダンス ZL = 0Ω なので

入力インピーダンス Zin = j Z0 tanθ となり

オープンスタブと同じように、伝送線路の長さに相当する θ の大きさによって入力インピーダンスが変化します。

そしてオープンスタブとの関係性としてみると、それぞれの入力インピーダンスは cot が tan の逆数であるため、オープンスタブとショートスタブは正反対の性質を持ちます。

そのためショートスタブは、対象とする周波数の波長に対して θ<λ/4 (90°)のときにはコイルとして機能し、θ>λ/4 (90°)のときはコンデンサとして機能します。

 

 

ショートスタブでマッチング

ではショートスタブを使ったインピーダンスマッチングの例を紹介します。

対象となる回路は、50Ωの伝送線路と10Ωの負荷で、周波数は 1GHz とします。

スタブを使ってインピーダンスマッチングする場合には、伝送線路の長さとスタブの長さをそれぞれ調整して、スミスチャート上の特定のインピーダンスへと変換していきます。

スミスチャートの詳細はコチラ↓

スミスチャートとはスミスチャートは、高周波回路のインピーダンスマッチングに使用される一種のグラフツールで、高周波回路の設計においては無くてはならないものと...

 

ここでは「Quick Smith」を使用します。

まずは正規化インピーダンスを50Ωとして、負荷10Ωをプロットします。

そしてここからチャートの中央 r=1 の点へと移動していくわけですが、まずは負荷に対して特性インピーダンス Z0=50Ω の伝送線路を直列に挿入します。

直列に接続された伝送線路は、線長に応じてスミスチャートの等レジスタンス円上を時計回りに移動するので、アドミタンスチャートの2つ目の等コンダクタンス円に交わるように線長を調整します。

この例においては、おおよそ 20mm です。

そして次に負荷に対して並列にショートスタブを接続します。

ショートスタブは、特定の周波数以外ではただの0Ωの終端に見えるため、現在のインピーダンスを示す青い点は一旦左端の0Ωの位置へと移動します。

ここからショートスタブの長さを徐々に大きくしていくと、r=1 の等コンダクタンス円に沿って時計回りに青い点が移動していきます。

チャートの中央へと移動できればインピーダンスマッチングは完了で、ここでは スタブ長を 125.6 mm としました。

このように直列の伝送線路と組み合わせてインピーダンスマッチングするのが、スタブを使ったインピーダンスマッチングの考え方です。

 

オープンスタブでマッチング

ではつづいてオープンスタブの例です。

基本的な考え方はショートスタブの時と同じで、伝送線路を直列に挿入して r=1 に交わる等コンダクタンス円へと移動し、そこから並列にオープンスタブを接続して r=1 の点へと移動していきます。

先ほどと同じように、負荷に対して直列に伝送線路を挿入します。

そこから伝送線路の長さを調整して、r=1 の円と交わる点へと移動していきます。

そして負荷に対して並列にオープンスタブを接続し、スタブの長さを徐々に長くして青い点を r=1 の点へと移動させます。

この例では、スタブ長が 50.7 mm のときにインピーダンスマッチングが完了です。

インピーダンスマッチングする手順は、ショートスタブの場合と全く同じでしたね。

 

 

スタブの選択

ちなみにそれぞれのスタブの線長を比較すると、ショートスタブの線長が 125.6 mm だったのに対して、オープンスタブの線長が 50.7 mm と、オープンスタブの方が半分以下の長さとなっています。

しかしこれは、負荷のインピーダンスによって変わります。

そのため負荷の状況に応じて、ショートスタブを使うのか、オープンスタブを使うのかを選択することとなります。

 

ただし実験用ということであれば、ショートスタブよりもオープンスタブがおすすめです。

ショートスタブはGNDへの接続が必須となるため、線長に対して融通は効きません。

一方でオープンスタブは、マッチングの周波数が微妙にずれている場合には、スタブの端を切ってしまえば、線長が短くなり、周波数を調整することができます。

いずれにしても、何を優先するのかを考えて使い分けてください。

 

おわりに

今回は、オープンスタブとショートスタブ、それぞれのスタブを使ったインピーダンスマッチングの方法を紹介しました。

どちらのスタブも一見するとただのパターンに見えますが、高周波においては1つの素子として機能するということを理解しておいてください。

今回説明に使用した QuickSmith や QucsStudioなどの回路シミュレータを使えば、それぞれのスタブを使った時の線長を簡単に計算することができます。

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インピーダンスマッチング【QucsStudio】前回の記事でスミスチャートの学習用のツールとしてQuickSmith を紹介しました。 https://engineer-clim...
伝送線路でインピーダンスマッチング前回の記事でコイルとコンデンサを使用した「集中定数型」のインピーダンスマッチングの方法を解説しました。 https://engin...

ぜひ一度チャレンジしてみてください。

 

今回は以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

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