インピーダンスマッチングは、高周波回路において反射波の影響を低減するために必要となるものです。
今回はそんなインピーダンスマッチングの概要とマッチング方法について解説します。
動画はコチラ↓
基礎知識
まずインピーダンスマッチングを理解しやすくするために、インピーダンスと反射係数について少しおさらいします。
インピーダンス
インピーダンスは交流の電気の流れにくさを表し、単位は Ω [オーム] で表されます。

直流における抵抗との最大の違いとしては、単純な大きさではなくベクトルとして表されるところにあります。
インピーダンスは抵抗とリアクタンスによって Z=R+jX として表され、それぞれ抵抗が損失の大きさ、リアクタンスが位相の変化量に相当します。

このうちリアクタンスは、誘導性のリアクタンスと容量性のリアクタンスの2つの種類に分けられ、誘導性のリアクタンスの大きさが正の値、容量性のリアクタンスの大きさが負の値としてプロットされます。
またこの時のインピーダンスは Z=R+jωL+1/jωC として表され、周波数によってその大きさが変化します。

ここまでがインピーダンスの基本知識です。
もう少し詳しく復習したい方はコチラ↓

反射係数
反射係数は、ある伝送線路や回路に交流の信号が入射したときの入射波に対する反射波の比をとったもので、信号がどれだけ反射するかを表す係数となります。

反射係数の大きさは 0 < Γ < 1 範囲で表され、Γ = 0 が信号が全く反射していないということを意味しており、反対に Γ = 1 は入射した信号がすべて反射して戻ってきているということを意味しています。
この反射係数は、伝送線路の特性インピーダンス Z0 と負荷のインピーダンス ZL の関係性として表すこともでき
反射係数 Γ = (ZL – Z0) / (ZL + Z0) として表されます。
反射係数の詳細はコチラ↓

反射係数が小さいということは、きれいな信号を伝送するため、またエネルギーをロス無く伝えるため、どちらにとっても大切なことです。
そして反射係数を小さくするために入力と出力のそれぞれのインピーダンスを等しくすることをインピーダンスマッチングと呼びます。

高速デジタル回路のマッチング
デジタル信号は ON と OFF の2値によって信号を伝送しますが、その中でも特にON、OFFの周期が短い信号のことを高速デジタル信号と呼びます。
これらの高速デジタル信号では、ドライバと伝送線路間、あるいは伝送線路とレシーバ間でインピーダンスのマッチングが取れていない場合、信号が反射することでオーバーシュートやアンダーシュート、更にはリンギングなどが発生します。


そのためドライバの近端やレシーバの近端にインピーダンスマッチングするための回路が
挿入されます。
ドライバ側
ドライバの近端においては「ダンピング抵抗」を伝送線路に対して直列に挿入し、インピーダンスマッチングが行われます。
このダンピング抵抗は、ドライバの出力抵抗に対してインピーダンスを付与する形で機能し、例えば、ドライバの出力抵抗が 15Ωだったとすると、ダンピング抵抗がない状態では信号の半分以上が反射します。

ここに 33Ω のダンピング抵抗を挿入すると、反射係数 Γ = 0.02 となり、ほとんど反射しないようになります。

これがダンピング抵抗によるインピーダンスマッチングの効果です。
レシーバ側
一方でレシーバの近端では、抵抗を使うことは同じですが、この抵抗をレシーバと並列に接続します。
基本的にICなどの入力ピンは高いインピーダンスを持っており、そこに並列に低いインピーダンスの抵抗を接続すると。合成インピーダンスは低い方のインピーダンスに引っ張られます。
つまり50Ωの抵抗を並列に接続することで、合成インピーダンスを 50Ωに近づけるということです。
例えばレシーバの入力インピーダンスが 1kΩ だったとすると、そのままの状態では 9割以上の信号が反射してしまうわけですが

並列に抵抗を接続することで合成抵抗が 48Ωとなり、ほとんど反射しなくなります。

注意事項
このように高速デジタル信号の伝送線路においては、「ダンピング抵抗」や「並列終端抵抗」を使ってインピーダンスマッチングが行われています。
ただしいずれの方法も抵抗を使用するため、必ず電力のロスが発生します。

そのため闇雲にすべての高速デジタル信号に対してダンピング抵抗や終端抵抗を追加すればいいということではなく、状況に合わせて適切に「付ける」「付けない」、あるいは定数を選定することが重要となります。
RF回路のマッチング
RF信号では、抵抗を使ってインピーダンスマッチングすると高周波の部品への負荷が大きくなり、発熱などの別の問題が発生します。
そのためコイルとコンデンサを使ってインピーダンス・マッチングを行います。
RF信号は、搬送波と呼ばれる高周波に、ある帯域幅を持ったベースバンド信号を掛け合わせて高い周波数帯で信号を伝送しています。

これは特定の周波数帯においてインピーダンスマッチングができていれば問題ないということを意味しており、その特定の周波数帯のインピーダンスマッチングに使用されるのがコイルとコンデンサです。
この記事のはじめにインピーダンスについて簡単に解説しましたが、インピーダンスのうち
誘導性リアクタンスと容量性リアクタンスは、それぞれ周波数に応じてその大きさが変化します。

そのためこのコイルとコンデンサの性質をうまく組み合わせて、特定の周波数帯でインピーダンスマッチングするというのがRF信号に対するインピーダンスマッチングの考え方になります。
そしてコイルとコンデンサは直列に挿入したり、並列に接続したりと様々な組み合わせ方がありますが、その組み合わせを検討するためのツールが「スミスチャート」です。

スミスチャートの詳細はコチラを参照ください↓


おわりに
今回はインピーダンスマッチングの概要とインピーダンスマッチングの方法について解説しました。
インピーダンスと反射係数は、電気回路や高周波においては基本となる知識なのできちんと理解しておいてくださいね。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。