今回はNanoVNAのハイエンド版に位置づけられる LibreVNAについて紹介します。
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LibreVNAとは
LibreVNAは USB接続で動作する格安ネットワークアナライザの一種です。
発売当初は$399、日本円で5万円台で入手することができましたが、残念ながら最近は円安や部品コストの上昇の影響で7万円~8万円程度となっています。
https://www.switch-science.com/products/8617
特徴
LibreVNAでは信号処理にかかわる部分をパソコン側のリソースを使用することで高度な測定に対応できることはもちろん、部品コストを削減しています。
一方でNanoVNAのように単体で動作させることはできないので、持ち運びの荷物が増えてしまったり、測定のためのスペースが必要だったりとデメリットもあります。
スペック
LibreVNAは 100kHz~6GHzの周波数に対応した 2ポートのネットワークアナライザです。
フル2ポート測定にも対応しているため S11、S12、S21、S22のすべてのパラメータを同時に測定することができます。(NanoVNAは信号源がポート1にしか接続されていないため、S11とS21の2つのパラメータしか測定できません)
また LibreVNAはアルミ削り出しの金属ケースで基板が覆われており、これによって高い性能が得られるようになっています。やや指紋が付きやすいですが、それなりに高級感のある仕上がりとなっています。
サイズについては他の格安ネットワークアナライザと比べて1回りか2回りくらい大きく、さらに重量についても357gとずっしりとした感じです。
そのため持ち運んで使用するよりも、じっくりと腰を据えて使用するのに向いたネットワークアナライザと言えそうです。
設計情報
LibreVNAはオープンソースプロジェクトなので、回路図やソースコードといった設計情報が公開されています。
詳細については Githubのページから確認するか、RFワールドNo56 の特設記事「LibreVNA試用記」を参考にしてみてください。
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PCソフトウェア LibreVNA-GUI
PCソフトウェアは「LibreVNA-GUI」という名前で Githubのページからダウンロードできます。
https://github.com/jankae/LibreVNA/releases
アップデートも継続的に行われており、2023年4月現在は v1.4.0が最新版です。
なおLibreVNA本体のファームウェアもソフトウェアと同時にアップデートされているので、それぞれのバージョンを合わせて使用する必要があります。
使用上の注意事項
LibreVNAをPCと接続してしばらく時間が経過すると、LibreVNA本体がかなり熱くなります。この発熱については、本体表面の温度が40℃を超えるくらいまで温度が上昇します。
はじめて使用したときにはどこか異常があるのかを心配したのですが、現時点での仕様となっているようです。ちなみに発熱の原因については、RF入力部で使用しているミキサと発振器によるものだそうです。
低温やけど
発熱の問題点の1つ目は、単純に危ないということです。
特に本体表面が40℃を超えるような機器を長時間肌に接触させると低温やけどに至ることもあるので、あまり触れないようにするべきです。
温度ドリフト
もう一つの問題点が、発熱による温度ドリフトです。
計測器ではウォーミングアップといって、機器内部の温度が安定するまでしばらく時間を放置して再現性高く測定できるようにしますが、LibreVNAはアルミ削り出しのケースによって熱容量が大きいせいか、温度が安定するまでにかなり時間を要します。
実際に20℃くらいの室温環境で動作させてみてみると、温度が安定するまでに90分くらいかかっていたので、他の計測器と比べるとかなり時間が掛かります。
この温度が安定する前にキャリブレーションを行うと、温度ドリフトによって基準値がずれてしまうため、短くても1時間程度は暖機してから使用する必要があります。
測定事例
今回はDUTとしてアッテネータとアンプの特性を測定してみます。
同軸型アッテネータ
アッテネータは同軸型のもので、1個あたり1000円程度で入手したものです。
今回は3dBから30dBまでいくつかの種類を用意したので、これらを組み合わせながら最大70dBまで測定してみます。
S21の測定結果を見てみると、アッテネータの減衰量に応じてS21の値が徐々に低下しているとともに、3GHzより高い周波数において減衰量が変動している様子が確認できます。
このリップルについては、LibreVNA内部のインピーダンスの不整合によって同軸ケーブルの長さによる共振が生じている可能性が高いです。
この対処法については、Twitterにて以下のようなキャリブレーション法が提案されているので参考にしてみてください。
RFアンプ
アンプについてはAmazonで2500円程度で購入したものです。
100kHz~6GHzの範囲で20dB程度のゲインとなっていますが、スペック的にかなり怪しそうなのでちょうど良いDUTになってくれそうです。
周波数特性
まず周波数特性については -40dBm~0dBmまで10dB間隔で出力レベルを変えたときの特性を示します。
測定結果より、-40dBmと-30dBm以外はRFアンプの飽和によって適切なゲインが得られていないことがわかります。
また周波数特性については 1.4GHzを越えたあたりから20dBのゲインを下回っており、4GHzを越えたあたりからはゲインが0dBを下回る結果となっています。このことから 1GHz以下であれば信号を増幅してくれますが、スペック的には詐欺っぽい感じであることがわかります。
パワー特性
LibreVNAでは周波数を固定した状態で、信号レベルを変化させるパワー掃引に対応しているため、このパワー掃引の機能を使ってRFアンプの特性を測定してみます。
1MHzや100MHzなどのゲインが高い周波数においては、-30dBm以上の信号が入力されるとRFアンプの飽和が始まっていく様子が確認できます。
またゲインが低い周波数においても、入力レベルとゲインの和が0dBmとなるくらいからRFアンプの飽和が徐々に始まっていき、入力レベルが-3dBmくらいになるとゲインが収束していく様子を確認できます。
このような入力レベルに対する応答は、NanoVNAなどでは中々測定するのが大変なので LibreVNAを使用するメリットと言えそうです。
その他の機能
LibreVNAにはネットアナ以外にも信号発生器とスペクトラムアナライザの機能が搭載されています。
信号発生器
信号発生器については、設定可能な項目はそれほど多くありません。
例えば中心周波数を30MHzで周波数範囲を40MHzと設定すると、10MHz~50MHzまで段階的に周波数が変化する信号を生成することができます。
スペクトラムアナライザ
スペクトラムアナライザは掃引速度があまり速くなく、波形の確認程度であれば使えるかなっといった印象です。
この2つの機能については一応LibreVNAならではのメリットと言えますが、性能的には補助的なツールという位置づけが適切かと思います。
おわりに
今回はLibreVNAについて紹介しました。
LibreVNAはスペック的にはNanoVNAより優れている点が多いものの、発熱による温度ドリフトがあったり、インピーダンスの不整合が大きかったりと扱いづらいところが多い印象でした。
そのためネットワークアナライザをとにかく使ってみたいという方には NanoVNAやLiteVNAの方が良いかと思います。
一方でフル2ポートの測定に対応していたり、パワー掃引ができたりと LibreVNAにしか搭載されていない機能もあるので、そうした機能が必要な方にとっては LibreVNAが適切です。
またLibreVNAでは定期的にアップデートが行われており、アルファ版のv1.5においては2台のLibreVNAを組み合わせて 4ポートネットワークアナライザとして動作できるようになっています。
わたしは検証できていませんが、このような拡張性の高さもLibreVNAの魅力の一つなので、興味のある方は一度チェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。