静電気放電は、わたしたちが生活の中で最も体験すること多いイミュニティの現象で、「IEC61000-4-2」で規定されている静電気放電試験は、高速な立ち上がりノイズによって、多くの誤動作を引き起こす非常に厄介な試験です。
そこで今回は、そんな静電気放電試験「IEC61000-4-2」の概要について紹介します。
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静電気の発生メカニズム
みなさんも身近で体験しているので、おおよそのイメージは付くかと思います。
人体に帯電する静電気(電荷)は、多くの場合、衣服と他の物質の摩擦によって生じます。
例えば、車のシートとの摩擦や、衣服を重ね着した場合には衣服同士の摩擦です。
そして静電気放電は、衣服に帯電した電荷が平衡状態になろうとして、人体を通じて他の導体へと流れるときに発生します。
これがパチっと感じる電気の正体です。
静電気放電試験の種類
接触放電
導体に接触した時の放電現象のことを「接触放電」と呼びます。
IEC61000-4-2試験においては、接触放電を模擬するために放電ガンの先端を導体部に接触させた状態で電圧を印加します。
一般的な電子機器の場合、筐体の固定に使用しているビス、筐体の未塗装の箇所、インターフェースコネクタの金属シェルなどに対して接触放電試験を実施します。
なお、IEC61000-4-2はシステムレベルで規定された規格であるため、基板上の部品や伝送線路上に直接静電気を印加することはありません。
半導体の静電気耐性に関しては、JEDEC規格などで規定されています。
https://www.oeg.co.jp/esd/ESD.html
気中放電
静電気は他の導体に近づいたときに、空気が絶縁破壊して放電が発生することがあります。
この放電現象のことを「気中放電」と呼び、IEC61000-4-2試験でも試験が行われています。
気中放電試験における印加箇所は、金属筐体の塗装部分、液晶画面の全面、筐体の隙間など、表面が絶縁されている箇所です。
そして気中放電試験では、絶縁破壊させる必要があるため、毎回離れた箇所からできるだけ素早く静電気ガンを近づけて試験を行います。
近づける速さや方向によって絶縁破壊したり、しなかったりするため、あまり再現性の良い試験ではないと言われています。
ちなみに、接触放電と気中放電は静電気ガンの先端の形状が異なります。
先端の尖ったタイプが「接触放電用」、先端の丸いタイプが「気中放電用」です。
間接放電
これまで説明した「接触放電」と「気中放電」は大きな括りとして「直接放電」と呼ばれる試験になります。
これは供試品に対して、静電気を直接印加することからこのように呼ばれています。
一方で「間接放電試験」では、他の導体に静電気が印加された時の耐性を評価します。
IEC61000-4-2においては、垂直結合板(VCP:Vertical Coupling Plane)と水平結合板(HCP:Horizontal Coupling Plane)に対して静電気を印加します。
この結合板に静電気が印加されると、電圧が誘起されることで「電界」が生じ、グランドプレーンに対して電流が流れることで「磁界」が生じます。
つまり供試品は、これらの電磁界に晒されたときの耐性が求められます。
試験波形
静電気放電試験では、規定の負荷(ターゲット)に対してパルス電圧を印加した時の「電流波形」が規定されています。
この波形の特徴としては、立上り時間が非常に早いことです。
立上り時間が1ns以下となるため、1GHz以上の周波数帯域幅を持ち、これは供試品に対して「広帯域」「高電圧」のノイズが印加されることを意味します。
これが「静電気放電試験」で誤動作が多く、ノイズ対策を難しくさせる原因です。
静電気発生回路
「IEC61000-4-2」では「150pF」のコンデンサに電荷を帯電させ、人体の接触抵抗を模擬した「330Ω」の抵抗を介して供試品に電圧を印加します。
試験電圧
静電気放電は電圧は非常に高いですが、静電容量が非常に小さいためエネルギーの総量は大きくなく、痛いですがパチっとする程度で済みます。
一方雷サージは、印加電圧は同じくらいですが、容量が非常に大きいため、もし触ってしまったら確実に感電して意識を失うでしょう。
いずれにしても高電圧を扱う試験になるため、安全には十分注意を払って試験を実施する必要があります。
試験配置
グランドプレーンから高さ0.8mの木製の机の上に水平結合板を乗せ、水平結合板とグランドプレーンは470kΩの抵抗を2個介して接続します。
垂直結合板も同様に、470kΩの抵抗を2個介してグランドプレーンに接続します。
床置き機器は、グランドプレーンの上に高さ0.1mの絶縁支持台を置き、その上に供試品を乗せます。
床置き機器の場合は、水平結合板はないため、間接放電試験は垂直結合板でのみ実施します。
いずれの配置においても、放電ガンのリターンケーブルは、可能な限りグランドプレーンに近い位置に確実に接続する必要があります。
またリターンケーブルは、周囲の金属物から0.2mより遠ざけて配線することにも注意が必要です。
おわりに
静電気放電試験「IEC61000-4-2」の概要について紹介しました。
静電放電試験は、立上り時間が非常に速く、高周波現象を取り扱うため、再現性の高い試験を実施するためには多くの注意を払う必要があります。
他の「IEC61000-4シリーズ」の試験については、下記のリンクからチェックできます。
静電気放電は身近な現象なだけに、厳しく評価しなければ市場でのクレームに繋がります。
静電気対策に関する情報は少ないですが「電気機器の静電気対策」などが参考になるかと思います。
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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。