フェライトコアは、ノイズ対策部品として様々な箇所で使用されていますが、磁気飽和に気をつけていないと思ったようなノイズ抑制効果が得られません。
そこでこの記事では、磁石を使ってフェライトコアが磁気飽和する様子を検証してみます。
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B-H特性
フェライトコアを含めた磁性体は、その性質を B-H特性によって表されます。
このB-H特性は、横軸に磁界強度、縦軸に磁束密度をとったもので、外部から印加される磁界に対してどれくらい多くの磁束を取り込めるかを表します。
B-H特性において、磁界の取り込みやすさに相当する曲線の傾きを「透磁率」、磁束密度の最大値のことを「飽和磁束密度」と呼びます。
磁性体の性質
B-H特性に基づいて磁性体の種類を分類すると、ハードフェライトとソフトフェライトの2つの種類に分類することができます。
ハードフェライト
ハードフェライトはいわゆる磁石のことで、一度外部から磁界を印加して磁化させるとそのまま磁化し続けるという性質を持ちます。
これがいわゆる着磁と呼ばれるものです。
磁石が普段から N極と S極に分かれているのも、このハードフェライトとしての性質を持つためです。
ソフトフェライト
一方でフェライトコアをはじめとしたソフトフェライトは、外部から磁界を印加するとハードフェライトと同じように磁化しますが、磁界をもとの状態に戻すとニュートラルな状態へ戻るという性質を持ちます。
つまり外部から磁界を印加しない限り、極性を持たないということです。
磁気飽和とは
B-H特性の右上の領域を抜き出して、さらに透磁率も合わせてプロットすると、磁界強度に応じて透磁率が変化して様子が見て取れます。
磁界強度が小さい領域においては、赤線のB-H曲線の磁束密度が高くなっていきつつ、青線の透磁率も同時に高くなっていきます。
一方で、最大透磁率となる磁界強度を超えてB-H曲線が飽和磁束密度に近づくと、透磁率が減少傾向となっていき、飽和磁束密度に至ったころには透磁率が 1 にまで低下します。
透磁率が 1 になるというのは、透磁率が空気と同じであることを意味し、つまりはフェライトコアを取り付けてもノイズ対策として機能しないということになります。
このように一定以上の磁界を印加したときに、透磁率が低下した状態のことを「磁気飽和」していると言います。
磁気飽和の検証
ここでは、磁石を使ってフェライトコアを磁気飽和させます。
使用部材
今回は、100円均一で購入した60mTの磁石を使ってフェライトコアを磁化させます。(一応 60mTとなっていますが、あくまでも参考程度とお考えください)
フェライトコアは、以前アマゾンで購入したYFFSFDCのフェライトコアを使用します。
ちなみにこのフェライトコアは、いわゆる高周波用のフェライトコアで、透磁率が 1,000程度、飽和磁束密度が 300 ~ 400mT程度ではないかと思います。
フェライトコア単体
まずは外部から磁界をかけない状態でインピーダンスを測定し、このデフォルトのインピーダンスとワイヤー単体のインピーダンスを磁気飽和を判定する上での基準とします。
両者の差を取ると 36 – 3 = 33[Ω] となり、これがフェライトコア単体でのインピーダンスとなります。
磁石の影響(1個)
まずは磁石を1つ、フェライトコアにつけます。
するとデフォルトのインピーダンスと比較して、10MHzにおいて 6Ω程度低下していることがわかります。
これが磁気飽和の影響です。
磁石の影響(複数個)
ここから磁石の数を順々に増やしていき、さらにフェライトコアを磁化させます。
するとインピーダンスは磁石の数が増えるごとに低下していき、3個を超えたあたりからは
ほとんどワイヤー単体のインピーダンスと等しくなります。
これはつまりフェライトコアが完全に磁気飽和しているということで、このように磁気飽和が起こるとフェライトコアのノイズ抑制効果が得られなくなります。
そのためフェライトコアを使用していて、かつ周囲に磁気を帯びたものがあったりすると、
同じような原因でノイズ抑制効果が低下している可能性があるかもしれません。
ちなみにフェライトコアにくっつけていた磁石を取り外して、再びインピーダンス特性を測定するとインピーダンスは元の状態に戻ります。
磁性体の性質としては、残留磁束密度が生じるためフェライトコアの内部には若干の磁束が残るのですが、インピーダンスの観点においてはほとんど影響していないと言えます。
つまり、一度磁化したからといって、そのフェライトコアが使えなくなるということでありません。
フェライトコアのサイズの影響
最後にフェライトコアのサイズの影響を検証してみます。
小サイズ
まずサイズの小さいタイプです。
元のサイズのときと同じような傾向で、2個でもインピーダンスが 1/3程度まで低下しています。
ただしもともとのインピーダンスが低いため、他のサイズと比較してインピーダンスが更に低くなります。
大サイズ
サイズの大きいタイプです。
こちらは他のサイズと違って磁気飽和の影響がかなり緩和されて、4つ付いた状態でも半分程度のインピーダンスを維持しています。
これはサイズが大きいものほど断面積が大きくなるためで、その分だけ磁気飽和が発生しづらくなっています。
つまり、磁気飽和そのものもは材料特性に依存した現象ではありますが、フェライトコアのサイズによって磁気飽和の発生しやすさが変わってくるということです。
そのため、磁気飽和が疑われる場合には、サイズを大きくするという対処方法もある程度有効になると言えます。
おわりに
今回はフェライトコアの磁気飽和をテーマに、磁石を使った磁気飽和の実験を行いました。
磁気飽和が発生すると、インピーダンスが低下してノイズ抑制効果が得られなくなるので、ノイズ対策に使用する際には磁気飽和が発生しないように注意するようにしてください。
今回使用したフェライトコア
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。