Amazonで販売しているフェライトコアのレビューを見ると、ノイズ対策効果に対する「良い意見」と「悪い意見」の両方とも記載されています。
これは対象となるノイズに対して、フェライトコアを正しく取り付けられているかによってノイズ対策効果が変わってくるためで、使い方の詳細は下記の記事で解説しています。
一方でこれらのレビューにおいて、フェライトコアそのものの性能(インピーダンス)について言及しているものはありません。
そこで今回の記事では、実際にAmazonで購入した3種類のフェライトコアのインピーダンスを測定し、エンジニアの観点から見た最もコスパの良いフェライトコアを探してみたいと思います。
動画はこちら↓
評価対象
今回Amazonで購入したフェライトコアは、以下の3種類です。
① MacLab.
Amazonでフェライトコアと検索するとトップに出てくる商品で、この印象的なロゴを目にしたことがある方も多いかと思います。
価格は、内径がΦ5mmのモデルが10個1セットで約900円となっており、1個あたり90円で入手することが可能です。
② YFFSFDC
こちらは恐らく中華メーカー製のフェライトコアで、 内径が異なる5種類(Φ3.5mm,Φ5mm,Φ7mm,Φ9mm,Φ13mm)のタイプが20個で1セットとなっています。
価格は約1,000円で販売されているので、1個あたり50円で入手できることになります。
エレコム
最後は唯一の国内メーカーで「エレコム」の「NF-37SS」です。内径はΦ3.0~6.6mmに対応しています。
このフェライトコアには「TKK」と刻印されており、国内のノイズ対策部品メーカー「竹内工業」からOEM供給を受けているものと思われます。
購入価格は1個で258円です。
価格比較
この3種類のフェライトコアは、内径のサイズがおおよそ同じものを選んでいますが、価格は最大5倍程度の差があります。
単価で比較すると「YFFSFDC < MacLab. << エレコム」です。
ただし YFFSFDCは、アマゾンでの評価が「星2.3」となっており、これだけ見ると少し不安な気もします。
一方で MacLab.は、価格もそれなりに安く、かつ評価もそこそこ高い「星3.6」となっているため、これがフェライトコアのトップに表示されている理由と思われます。
エレコムに関しては、評価は「星3.7」とトップであるものの、YFFSFDCと比較すると単価が「5倍」以上となっているため、そのあたりが少しネックになる印象ですね。
評価方法
今回はフェライトコアのインピーダンスで性能を比較します。
インピーダンスの測定にあたっては、計測器の都合上、2つの周波数帯に分けました。
低い周波数帯の方では、電源周波数(50Hz / 60Hz)及びその高調波(~2kHz / 2.4kHz)からAMラジオ(526.5kHz~1.6MHz)の帯域をカバーできるようにします。
高い周波数帯の方は、FMラジオ(76.1~94.9MHz)や地デジ放送(470MHz~710MHz)といった高周波をカバーできるようにします。
低周波帯
低周波帯の測定には「AnalogDiscovery2」を使用します。
AnalogDiscovery2は、「オシロスコープ」「ファンクションジェネレータ」「スペアナ」「ネットアナ」「インピーダンスアナライザ」など様々な計測器として使用することができる万能計測器で、これ一台で多くの実験を行うことができます。
今回は、AnalogDiscovery2のインピーダンスアナライザキットを使って、フェライトコアのインピーダンスを測定します。
高周波帯
高周波帯の測定には「NanoVNA」を使用します。
NanoVNAの詳細はこちら↓
コスパ最高のネットアナです。
NanoVNAの測定周波数帯は「1MHz~1GHz」とします。(NanoVNAは、300MHz以上と900MHz以上の周波数で2回ダイナミックレンジが低下しますが、今回は相対評価なので気にしないこととします。)
低周波帯のインピーダンス特性
「10Hz~10MHz」のインピーダンス特性です。
いずれのフェライトコアとも、100Hz以下の周波数においては、ケーブルのみのインピーダンスよりも低い値となっています。(測定系の問題と思われますが、詳細は未検証)
このことから、例えばハムノイズや電源高調波に対しては、ほとんどノイズ抑制効果がないということがわかります。
そしてAM帯においては、1MHzでエレコムのフェライトコアが 11Ωとなっており、他のフェライトコアと比較して 3倍程度高いインピーダンスを持っています。
これはつまり AM帯でノイズ対策する場合には、エレコムのフェライトコアが最も高いノイズ抑制効果が期待できるということになります。
ちなみに MacLab.とYFFSFDCはほぼ同じインピーダンスとなっており、形状も似ていることから、恐らく中身は同じフェライトコアが使用されていると思われます。
測定はこんな感じで行っています。
高周波帯のインピーダンス特性
「1MHz~1GHz」のインピーダンス特性です。
低周波においては、エレコムのフェライトコアのインピーダンスが高い結果となっていましたが、50MHzを境にして優劣が入れ替わっています。
これはインダクタンスという観点で考えると、インダクタンスが高いものほど自己共振周波数が低くなるため、ある程度納得できる結果です。
そしてFM帯(76.1~94.9MHz)においては、MacLab.とYFFSFDCのフェライトコアのインピーダンスが高い結果となっており、そのインピーダンスはエレコムと比較して1.2倍程度高くなっています。
また地デジ放送の周波数帯(470MHz~710MHz)においても同様の傾向で、周波数にもよりますが 最大で 2倍程度のインピーダンスの差があります。
このことから、高周波帯においては MacLab.とYFFSFDCのいずれかのフェライトコアを使用することで、高いノイズ抑制効果が期待できることがわかります。
なお今回の検証ではNanoVNA用のインピーダンスキットが無いため、簡易的なジグを製作して測定を行いました。(キャリブレーションは同軸端で行っているため、ジグの特性が多分に含まれていますが、相対比較であるためここでは無視しています。)
またキャリブレーション方法については、QWERTYUIOP(@kakuiwata)さんがTwitterで紹介していた方法を参考にさせていただきました。
s2pファイルをNanoVNAで精度良く取得するためのCALの結線を公開します。#NanoVNA#QucsStudio#インピーダンスマッチング#インピーダンス整合#スミスチャート#ネットアナ#ネットワークアナライザ#ADS#EMC#RF https://t.co/JWVgrnuTPi pic.twitter.com/MzvEopmocP
— 引用RTは感想です。悪意はありません。他人の感想が気になる方はブロックしてください。 (@kakuiwata) March 9, 2021
おわりに
アマゾンで購入した3種類のフェライトコアのインピーダンスを比較しました。
その結果、それぞれに一長一短あって、用途や重視する項目によって、優劣が違っている事がわかりました。(梱包状態に関しては、動画をご確認ください)
ちなみに個人的なおすすめは YFFSFDCのフェライトコアです。
DIYや電子工作などノイズの周波数が明確ではない場合には、サイズバリエーションがあって、かつ数量が多いため YFFSFDC が最もコスパが良いかと思います。
とりあえず自分で選ぶのは難しいという方は、参考にしてみてください。
その他のフェライトコアも、正しく使用すれば適切なノイズ抑制効果が得られるはずです。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。