放射エミッション試験は、測定対象の「周波数」や「種類(電界、磁界)」によって使用するアンテナが異なります。
そこで今回の記事では、放射エミッション試験で使用するアンテナのうち「30MHz以下」の周波数帯域で使用されるアンテナの概要について紹介します。
ロッドアンテナ
- 周波数帯域:30Hz~50MHz
- 測定対象:電界
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ロッドアンテナは車載の放射エミッション試験「CISPR25」で使用されるアンテナです。
伸縮可能な「棒状のアンテナ」と「カウンターポイズ」と呼ばれるグランドプレーンがセットで構成されます。
形状から分かる通り、垂直偏波の電界強度を測定するためのアンテナです。
EMC試験におけるロッドアンテナは、エレメント長が「1m」のものを使用します。
代表的な型式は ETS Lindgren社の「3301C」です。
3301Cはアンプが内蔵された「アクティブ」タイプのアンテナです。
アンテナの直下にハイインピーダンス入力のアンプが入っているため、過入力には十分注意が必要です。
一応、過入力の場合にはアンテナ本体からビープ音が鳴る仕様となっていますが、ビープ音が鳴っていない場合もアンプが飽和している可能性が0ではありません。
そのため、飽和しているか確認するために「パッシブ」タイプのロッドアンテナも準備しておくと安心です。
また最近のトピックスとして、Narda社から「EMIレシーバ内蔵」のロッドアンテナが販売されています。
https://www.toyo.co.jp/solution/car/column/detail/id=13776
今までにないタイプのアンテナで面白いですね。
CISPR16-1-1にも適合しているので、CISPR25やMIL規格などの規格適合試験でも使用できるようです。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2024/07/art-denshi-noise-handbook.jpg)
ループアンテナ
- 周波数帯域:10kHz~30MHz
- 測定対象:磁界
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ループアンテナは「CISPR11」の試験で使用されるアンテナです。
ループアンテナを回転させることで、X軸、Y軸の磁界強度を測定することができます。
シールデッドループと呼ばれる方式のアンテナを使用しています。
シールデッドループアンテナは、同軸の外導体がループアンテナをシールドし、かつ中央の部分スリットが設けられた構造になっています。
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ループアンテナは構造が単純であるためリンク先で紹介されているように自作も可能です。
アマチュア無線やSDR(ソフトウェア無線)の分野では、中波用のアンテナとして利用されているようです。
EMC試験におけるループアンテナは、ループ径が60cmのアンテナを使用します。
代表的なものとしては ETS Lindgren社の「6502」やローデ・シュワルツ社の「HFH2-Z2E」があります。
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どちらのアンテナもアンプを内蔵した「アクティブ」タイプです。
ロッドアンテナのときと同様に、入力が飽和する可能性があるため注意が必要です。
ラージループアンテナ
- 周波数帯域:10kHz~30MHz
- 測定対象:磁界
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ラージループアンテナは「CISPR11」や「CISPR15」の試験で使用されるアンテナです。
ラージループアンテナの設置方向により、X軸、Y軸だけでなく、Z軸方向の磁界強度も測定することができます。
CISPR11においては、電磁誘導加熱式調理器などにラージループアンテナを用いた試験が適用されます。
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ラージループアンテナは供試品(EUT:Equipment Under Test)のサイズによってループ径が異なりますが、通常はループ径が2mのものを使用します。
3軸のループアンテナが一体となったものの他に、1軸のループアンテナが回転し3軸測定するものもあります。
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ラージループアンテナは供試品(EUT:Equipment Under Test)の近傍で磁界を測定するため、「放射ノイズ」というよりも磁界による「結合」を評価する試験という印象です。
余談になりますが、CISPR15でこの試験が採用されている理由は、昔の照明機器の点灯方式にあります。
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現在はスイッチング電源を搭載したLED照明が主流ですが、水銀灯や蛍光灯の時代には磁気式安定器による点灯方式が主流でした。
磁気式安定器はランプの点灯に必要な開始電圧と適正な予熱電圧を供給するためのものですが、その構造は鉄心に電線を巻きつけたもので「コイル」そのものです。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2019/12/%E5%AE%89%E5%AE%9A%E5%99%A8-500x218.jpg)
この「コイル」から漏れる磁界が外部の機器へ結合することがないよう、CISPR15ではラージループアンテナによる評価が行われています。
ただし、現在は磁気式安定器を利用した照明機器はほとんど新規開発されていません。
そのため、CISPR15における磁界エミッション試験はLED照明にとってあまり意味はなく、形骸化している感は否めません。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2024/07/art-denshi-noise-handbook.jpg)
おわりに
放射エミッション試験で「30MHz以下」の周波数帯域で使用されるアンテナ(ロッドアンテナ、ループアンテナ、ラージループアンテナ)の概要について紹介しました。
30MHz以上の周波数帯域のアンテナに関しては、つづきの記事で解説しています。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2019/12/30MHz%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%86%E3%83%8A%E8%A1%A8%E7%B4%99-320x180.jpg)
それぞれのアンテナに要求される詳細な仕様に関しては「CISPR16-1-4」で規定されています。
総務省の国内答申からも確認できます。
iNarte資格試験にも関わってくる内容なので、是非しっかりと読んでみてください。
アンテナに関する勉強には「アンテナ工学入門」がオススメです。
アンテナの諸特性に関しては、以下の記事で解説しています。
興味のある方はチェックしてみてください。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2019/11/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%81_%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%B3v1-320x180.png)
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。