前回の記事で、電気回路と電子回路の違いについて解説しましたが、今回はその続編として「アナログ回路」と「デジタル回路」の違いについて解説します。
アナログ回路とは
アナログ回路は、抵抗・コンデンサ・コイル・トランジスタなどの部品で構成される回路です。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%88%E9%83%A8%E5%93%81-300x259.png)
このアナログ回路で扱う信号は、基本的には連続的な波形を取り扱います。
連続的という表現だとわかりづらいかもしれませんが、代表的な波形としては「正弦波」がこのアナログ信号に該当します。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2021/07/%E6%AD%A3%E5%BC%A6%E6%B3%A2_%E6%99%82%E9%96%93%E6%B3%A2%E5%BD%A2-500x266.png)
また部品をもとに分類すると、いわゆる「ディスクリート部品」で構成される回路ということになります。
ディスクリート(discrete )は「個別」や「別々」という意味を持ち、回路においては単機能の個別部品といった意味合いで使用されます。
つまり、アナログ回路では単機能の部品を複数組み合わせることによって、所望の機能を実現しているということです。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2024/07/art-denshi-noise-handbook.jpg)
デジタル回路とは
デジタル回路は、半導体ICを使って構成される回路です。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/cpu-g5abda3b40_640-300x240.png)
デジタル回路で扱う信号は、アナログ信号と違って離散的(非連続)な波形を扱います。
離散的という表現だとわかりづらいですが、具体的には特定の値をしきい値として 0(Low)と 1(High)の 2値の信号として扱うことができます。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E4%BF%A1%E5%8F%B7-800x167.png)
このように信号を離散化するメリットとしては、回路を簡略化することが挙げられます。特に近年は ICの集積化が進んで、小型で高機能なワンチップ ICが多数存在します。
アナログ回路とデジタル回路の分類
アナログ回路とデジタル回路を分類すると、以下のようになります。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%81%A8%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%88%86%E9%A1%9E.jpg)
この図を見て分かるとおり、アナログ回路とデジタル回路は互いに相対するものではなく、実はアナログ回路の中にデジタル回路が存在するという関係性になります。
この理由については、信号波形をもとに考えるとわかりやすいです。
例えば、デジタル回路では「矩形波」または「方形波」と呼ばれる波形が信号として伝送されます。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2021/07/%E7%9F%A9%E5%BD%A2%E6%B3%A2_%E6%99%82%E9%96%93%E6%B3%A2%E5%BD%A2-500x266.png)
この矩形波は、デジタル信号の特徴でもある 0(Low)と 1(High)の 2値の波形となっていますが、この矩形波を周波数領域に変換(フーリエ変換)すると、複数の正弦波で構成されていることがわかります。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2021/07/%E7%9F%A9%E5%BD%A2%E6%B3%A2_%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E6%B3%A2%E5%BD%A2-500x303.png)
つまりデジタル回路で伝送している矩形波には、アナログ信号である「正弦波」がいくつも重畳されているということです。そのため、デジタル回路はアナログ回路に内包されると定義することができます。
それぞれの信号波形の周波数特性については、以下の記事で解説しています。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2021/07/%E6%B3%A2%E5%BD%A2%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%81-320x180.png)
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2024/07/art-denshi-noise-handbook.jpg)
アナログ回路の特徴
アナログ回路の特徴(メリット・デメリット)は以下の通りです。
【メリット】
- 波形から傾向が読み取れる
- 高周波に対応できる
【デメリット】
- 小型化が難しい
- ノイズの影響を受けやすい
- 素子のばらつきの影響を受けやすい
波形から傾向が読み取れる
特殊な変調を掛けている場合を除いて、アナログ信号は波形そのものが値を示しているため、波形を見るだけで情報を読み取ることができます。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AD%E3%82%B0%E4%BF%A1%E5%8F%B7%E3%81%AE%E5%82%BE%E5%90%91-500x305.jpg)
そのため、ざっくり値の傾向を把握するには非常に適しています。
高周波に対応できる
高周波においては、信号の時間変化(di/dt, dv/dt)が大きくなります。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E4%BD%8E%E5%91%A8%E6%B3%A2%E3%81%A8%E9%AB%98%E5%91%A8%E6%B3%A2-800x412.png)
この高周波を扱う場合、デジタル信号においては時間変化に追従するためにサンプリング(標本化)を速くする必要がありますが、ある程度で限界が生じます。
一方でアナログ信号においては、値そのものを連続的に捉えることができるため、理論的には取り扱える周波数の上限は存在しません。
実際に電気信号ではありませんが、電磁波の一種である「赤外線」や「可視光」を使ってアナログ信号を伝送することも可能です。
小型化が難しい
アナログ回路では、ディスクリート部品を使って回路が構成されるため、必然的に物理的な寸法が大きくなります。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2020/12/capacitors-300x247.png)
また回路の電圧が高い場合や、部品の定数が大きい場合には、部品サイズが更に大きくなることもあります。
ノイズの影響を受けやすい
一方で、そんなアナログ信号の最大の弱点はノイズ(外乱)の影響を受けやすいことです。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF-800x413.png)
このノイズには多種多様なノイズが存在しますが、外部の機器から妨害を受けることもあれば、回路自体の動作によって生じるノイズによって妨害を受けることもあります。(自分自身のノイズによって妨害を受けることを「自家中毒」と言います)
アナログ信号がノイズの影響を受ける原因は、値自体が情報を持つことによります。
ノイズによって波形が変動することは、情報にエラーや誤差が生じることと同義であり、その影響を低減するために、実際の回路においては様々な種類のフィルタを使用する必要があります。
素子のばらつきの影響を受けやすい
これもノイズによる影響と同じですが、例えば使用している電子部品の誤差(公差以内であったとしても)によって波形が変化し、それによって値が変化します。
つまり同じ部品を使って回路を組んだとしても、素子のばらつきによって値の再現性が得られないということです。
また電子部品には必ず温度特性(周囲温度によって定数が変化する性質)があります。そのため、全く同じ部品を使用した回路であっても使用環境によって値の再現性が得られなくなります。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%87%E3%83%B3%E3%82%B5%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E7%89%B9%E6%80%A7-800x317.png)
もちろんこれらの課題を解決するために、電子部品には高精度なものや温度補償可能なものなどが存在します。
アナログ回路の現状
ここで挙げた 3つのデメリット「小型化が難しい」「ノイズの影響を受けやすい」「素子のばらつきの影響を受けやすい」によって、今日の家電機器においては多くの機能がデジタル回路によって実現されることにつながっています。
デジタル回路の特徴
デジタル回路の特徴(メリット・デメリット)は以下の通りです。
【メリット】
- 小型化が簡単
- ノイズの影響を受けづらい
【デメリット】
- 波形から値を直接読み取れない
小型化が簡単
デジタル回路では、半導体 ICの内部に様々な機能を持つ回路がすでに実装されているため、回路を非常に簡略化することができます。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/bios-g557ce18c4_640-300x234.png)
回路を簡略化できるということは、物理的な寸法を小さくできることと同じで、これによって多くの家電機器は小型化してきました。(ムーアの法則は、半導体内部の微細化に関するものですが、微細化が進むことに回路の集積度が上がるため、さらに小型化や高機能化が進んでいきます)
ノイズの影響を受けづらい
デジタル信号のもう一つの長所は、ノイズの影響を受けづらいことが挙げられます。
その理由は 0(Low)と 1(High)の 2値しかもたないために、例えば外部からノイズの妨害を受けたとしても、しきい値を割り込まない限りは信号に何も影響を与えないためです。
ただし、近年は省エネの要請からデジタル信号の低電圧化が進み、必ずしもノイズの影響を受けづらいと言えない状況も出てきています。(わずかなノイズでも 0(Low)と 1(High)のしきい値を割り込む可能性があるため)
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%83%8E%E3%82%A4%E3%82%BA%E3%81%AE%E5%BD%B1%E9%9F%BF_%E4%BD%8E%E9%9B%BB%E5%9C%A7%E5%8C%96-800x411.png)
このような状況においては、デジタル回路であってもアナログ回路(特に高周波回路)の知見が必要になることがあります。
波形から値を直接読み取れない
デジタル信号のデメリットとしては、波形から値を読み取ることができないことです。
例えば 4ビットを1組としてデータを伝送している場合に、波形だけを見て値を読み取ることは非常に困難です。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2022/01/%E3%83%87%E3%82%B8%E3%82%BF%E3%83%AB%E4%BF%A1%E5%8F%B7_%E5%80%A4-800x199.png)
一方でこれがアナログ信号であれば、電圧値がそのままデータとして機能するため、人間にとっては非常に直感的でわかりやすいです。
とはいえ、デジタル回路の ICにとってはデータの解釈(デコード)方法が規定されていさえすればよいため、あくまでも人間にとってのデメリットというくらいです。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2024/07/art-denshi-noise-handbook.jpg)
おわりに
今回は、アナログ回路とデジタル回路の違いについて解説しました。
![](https://engineer-climb.com/wp-content/uploads/2021/10/pixel-cells-6230200_640-300x342.png)
それぞれの回路にメリットとデメリットが存在しますが、現代の電子機器においては小型化・高機能化の観点から、多くのデジタル回路が実装されています。
一方でアナログ回路も全く存在しないということではなく、交流を直流に変換する「電源回路」や無線通信する「高周波回路」など、電子機器にとって必要不可欠な機能で使用されています。
そのため電気回路や電子回路を学んでいく上では、アナログ回路とデジタル回路で区別するのではなく、双方バランス良く学んでいくことが大切です。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。