無料ウェビナー はじめてのGbps超 高速伝送のキホン 2026年10月2日(金)14:00-16:30

この記事では、デジタル信号の立上り時間と高周波ノイズの関係について、時間軸と周波数軸の両方から解説します。
記事の最後には、わたしも登壇するオンラインセミナーについても紹介しています。

信号に含まれる周波数

実際のデジタル信号は、出力段の駆動能力と負荷容量によって有限の遷移時間を持つため台形波となります。

このうち電圧が直線的に変化する時間が、立上り時間です。ここでは繰り返し波形のパルス幅を \(T_w\)、立上り時間を \(t_r\) とします。

この台形波を周波数領域で見ると、その包絡線の中で傾きが変わる点が 2 つあります。1 つ目はパルス幅で決まる周波数 \(f_1\) で、これを超えると包絡線は −20 dB/dec で低下します。

\[f_1 = \frac{1}{\pi T_w}\]

2 つ目は立上り時間で決まる周波数 \(f_2\) で、これを超えると包絡線はさらに急峻になり −40 dB/dec で低下します。

\[f_2 = \frac{1}{\pi t_r}\]

図1 台形の波と、その包絡線で傾きが変わる 2 つの周波数

図1 台形の波と、その包絡線で傾きが変わる 2 つの周波数

上図から、2 つ目の周波数 \(f_2\) を超えると、台形波のエネルギーは急激に小さくなることがわかります。つまり信号に含まれる周波数の上限の目安を決めるのは、クロック周波数ではなく立上り時間ということです。

この関係は、特に放射ノイズが問題になったときの発生源の推定に利用できます。

問題になっている放射ノイズの周波数が、立上り時間から求めた \(f_2\) より低ければ、その台形波が放射ノイズに対して影響を与えていると考えられます。

導体損失と誘電損失

伝送線路上では、導体損失と誘電損失の 2 つの要素によって信号が減衰します。

1 つ目の導体損失は、表皮効果によって生じます。周波数が高いほど電流が導体の表面に集中して、実効的な断面積が小さくなることで損失が生じます。この導体損失は周波数の平方根に比例します。

2 つ目の誘電損失は、誘電体が電界の向きの変化に追従するときに生じます。この損失は誘電正接がほぼ一定であれば、周波数の 1 乗に比例して大きくなります。

図2 導体損失と誘電損失の、周波数に対する増え方の違い

図2 導体損失と誘電損失の、周波数に対する増え方の違い

上図の縦軸は単位長さあたりの損失、横軸は周波数で、低い周波数では導体損失が、高い周波数では誘電損失が支配的になります。

どちらが支配的になるかは、周波数だけでなく伝送線路の構造によって違いがあります。

FR-4 の 50 Ω マイクロストリップで平滑銅箔という条件では、両者が入れ替わる境界周波数は約 1.2 GHz と計算されています。

この値は、単位長さあたりの損失を次のように置いて求めたものです。導体損失を \(\alpha_c\)、誘電損失を \(\alpha_d\)、周波数を GHz 単位の \(f\) とします。

\[\begin{aligned} \alpha_c &= 0.1\sqrt{f} \quad [\text{dB/inch}] \\ \alpha_d &= 0.092\,f \quad [\text{dB/inch}] \\ 0.1\sqrt{f} &= 0.092\,f \\ f &= \left(\frac{0.1}{0.092}\right)^{2} \approx 1.2 \end{aligned}\]

ただし支配的な損失の境界は、マイクロストリップラインの線幅や銅箔の粗さの影響を受けるため、境界周波数は伝送線路の条件によって変化します。

波形のなまりと高周波成分の低下

伝送線路の損失は、周波数に依存する伝達関数として捉えることができます。

ここでドライバの出力信号を周波数変換し、そこに伝達特性を掛け算すると、レシーバへの入力信号の周波数特性が求められます。さらに逆フーリエ変換を掛けると、レシーバに到達する時間波形が得られます。

この一連の処理を通じてわかるのは、周波数領域で見た高周波成分の減衰と、時間領域で見た波形のなまりが、同じ伝達関数に対する表裏の関係になっているということです。

図3 同じ伝達関数を、時間で見た形と周波数で見た形で並べる

図3 同じ伝達関数を、時間で見た形と周波数で見た形で並べる

すなわち、高周波成分が低下することと、時間波形の立上り時間が増加することは同じ現象を別々の観点で見た結果に過ぎないわけです。

ここで重要になるのは、この伝達関数によって生じる損失がシグナルインテグリティ(SI)とノイズ対策(EMC)の間にトレードオフが発生することです。

SI の評価指標の一つとしてアイパターンがあります。アイパターンでは中央のアイ(目)の部分が大きく開くほど良好な信号と評価され、立上り時間が短いほどアイが大きくなる傾向にあります。つまり伝達関数による損失は、SI 観点ではデメリットになるということです。

一方で EMC 観点では、高周波成分が少ないほど放射ノイズが低下する傾向にあるため、伝達関数による損失はむしろメリットとしてみることもできます。導体損失や誘電損失によってエネルギーが消費されるのなら、外部へ漏洩する放射ノイズが低下することにつながります。

イコライザの影響

伝送線路による損失への対処として、イコライザが使用されます。イコライザは、伝送線路の損失と逆の特性をかけて、なまった波形を補償するものです。

補償する場所は、ドライバ側とレシーバ側に分かれますが、ここではドライバ側のイコライザに焦点を当てます。ドライバ側のイコライザは、伝送線路の損失を見込んで、あらかじめ出力信号に対して高周波成分を増幅します。

図4 イコライザをかけたドライバの出力信号を、時間で見た形と周波数で見た形で並べる

図4 イコライザをかけたドライバの出力信号を、時間で見た形と周波数で見た形で並べる

ここで注意すべきなのは、イコライザの動作によって出力信号の高周波成分が増えてしまうことです。そしてこの影響も、SI 観点と EMC 観点でそれぞれ異なります。

SI 観点では、損失で失われた高周波成分が補償されることで、レシーバ側での立上り時間の増加を軽減し、アイパターンの目も開きやすくなります。

一方で EMC 観点では、出力信号の高周波成分そのものが増えるため、放射ノイズを増加させる方向に作用します。

つまり、ここでも SI と EMC はトレードオフになっているということです。

ただし、すべての場面で SI と EMC がトレードオフになるわけではありません。例えば、グランド層のリターンパスやクロストークノイズ対策、電源品質(PI)の重要性などは両者に共通しています。

したがって、どちらか一方が正しいというわけではなく、SI と EMC の双方の観点で最適な水準を見極める姿勢が重要になります。

おわりに

この記事で扱ったデジタル信号の立上り時間と高周波ノイズの関係は、Gbps クラスの高速伝送において大きな問題の 1 つです。

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今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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