伝導エミッション試験で使用される「疑似電源回路網」、普段何気なく使用していますが、その役割をご存知でしょうか?
今回は、改めて「疑似電源回路網」の役割について考えてみます。
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種類
疑似電源回路網は「AMN」や「LISN」と表現されます。
- AMN:Artificial Mains Network
- LISN:Line Impedance Stabilization Network
それぞれの機能は同じですが、CISPR規格では「AMN」、FCC規格(米国)では「LISN」と表されます。
以下の記事では、すべて疑似電源回路網を「LISN」とします。
役割
LISNは伝導エミッション試験において、ノイズ電圧を正しく測定するために使用します。
主な役割として、以下の3つが挙げられます。
- 電源側から混入するノイズを抑制する
- EUTの電源端子から見たインピーダンスを一定に保つ
- ノイズを受信機に出力する
電源側から混入するノイズを抑制する
例えば、50Ω/50uH のLISNで考えてみます。
電源側(Mains)から供試品(EUT)をみると、LCによるローパスフィルタが構成されています。
このフィルタは電源側のノイズがEUT側へ流れないように作用し、測定対象の「150kHz以上」の周波数帯において「30dB以上」の減衰特性を有しています。
インピーダンスを一定に保つ
LISNのインピーダンスが規定されていなければ、LISNの種類によってEUTのノイズレベルが使用する変化することになります。
つまり、同じ測定をしても「再現性」や「相関性」が得られないということです。
そうした事態を避けるためにも、LISNのインピーダンスを一定に保つことは重要です。
インピーダンス特性
LISNのインピーダンス特性は、「CISPR16-1-2」において規定されています。
前述の「50Ω/50uH」のLISN の場合、測定対象の 150kHz以上の周波数帯域で 50Ωになるよう規定されています。
なお、150kHz以下の周波数帯で反共振が発生します。(この例では 23kHz)
この反共振の周波数とEUTのスイッチング周波数が一致すると、非常に大きなノイズ電流が受信機(レシーバー)へ流れていき、レシーバーの入力が飽和します。
そのような事態を避けるために、レシーバーのアッテネータを増減させて、入力が飽和していないか確認することが重要です。
ノイズを受信機に出力する
当然のこと言えば当然ですが、LISNだけあっても測定結果を表示することはできません。
また、単純にレシーバーに接続するだけでも正確な測定はできません。
なぜなら、LISNとレシーバーが「インピーダンス整合」していないためです。
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インピーダンス整合がとれていない場合、信号が反射し、本来の測定結果とは異なる値が表示されることになります。
そのため「CISPR16-1-2」においては、LISNの出力端子にインピーダンス整合用の「10dBのアッテネータ」を挿入することになっています。
青線:アッテネータなし 赤線:10dB アッテネータ
アッテネータなしの場合、インピーダンスが変動するため反射係数が大きくなります。
一方 10dBのアッテネータを挿入すると、インピーダンスが「50Ω」近辺で安定するためインピーダンスの不整合がなく、正確に測定することができます。
この考え方は、アンテナの直下にアッテネータを挿入して VSWRを改善することと全く同じです。
おわりに
疑似電源回路網(LISN)の機能と役割についてご紹介しました。
今回紹介したLISNは 「50Ω/50uH」 のLISNですが、中身の回路が変わってもLISNに求められる役割はすべて同じです。
測定の正しさを考えるためにも、基本的な機能を今一度見直してみてはいかがでしょうか。
今回は以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。