エミッション測定では、周波数スペクトルを表示するために「スペクトラムアナライザ」が使用されます。
規格適合(フルコンプライアンス)試験においては「CISPR16-1-1」に適合した「EMIレシーバー」を使用します必要がありますが、前段階でどの周波数からノイズが出ているかを調べるとき(予備試験)には「スペクトラムアナライザ」を使用します。
今回の記事では、そんな「スペクトラムアナライザ」の測定原理を紹介します。
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スペクトラムアナライザとは
周波数ドメインと時間ドメイン
周波数ドメインで電気信号を解析する計測です。
スペクトラムアナライザとの対比として、オシロスコープとの違いが挙げられます。
オシロスコープは電気信号を時間ドメインで解析する装置です。
オシロスコープは電気信号の時間変化を表示するため、横軸が「時間」、縦軸が「電圧」を表示します。
一方、スペクトラムアナライザは、横軸が「周波数」、縦軸が「電圧」を表示します。
この横軸の違いが、ドメイン(領域)の違いとなり、用途によって使い分けられます。
EMCの分野では、周波数別で限度値などが規定されているため、多くの場合スペクトラムアナライザが使用されます。
スペクトラムアナライザの方式
スペクトラムアナライザの方式は大きく分けて2つ存在します。
「同調掃引(スーパヘテロダイン)方式」と「FFT方式」です。
この中で、エミッション試験で一般的に使用されるのは「スーパヘテロダイン方式」です。
スーパーへテロダインの語源は、スーパーがオーディオの周波数帯を超える、へテロダインが2つの波形から新たな周波数を生成することに由来します。
つまり、入力信号を周波数を変換して、特定の周波数範囲だけを計測する方式です。
上のブロック図においては、ミキサー(MIX)で中間周波数と呼ばれる周波数に変換し、フィルタ(バンドパスフィルタ)、増幅器(アンプ)、検波器を通して特定の周波数成分のレベルを計測します。
特定の周波数範囲を測定する場合は、ローカル信号の周波数を「スタート周波数」から「ストップ周波数」まで変化させることで、周波数ごとのレベルが測定できます。
これがスーパーヘテロダイン方式のスペクトラムアナライザの測定原理です。
では次に、それぞれの機能別に役割を見ていきます。
アッテネータ
これは言わずもがな、信号を減衰する役割です。
アッテネータの後段に位置するミキサーは非線形素子で、規定以上のレベルの信号が入力されると出力波形が歪みます。
上図において、入力信号(正弦波)に対して、出力信号は正負ともにピークがクリップされて矩形波に近い形状に変化しています。
これを周波数ドメインでみると、本来は正弦波の周波数 f0 でしかスペクトラムを持たないはずが、歪みの影響で高調波にもスペクトラムが発生してしまいます。
このような歪みを抑制する機能が「アッテネータ」です。
スペクトラム・アナライザに内蔵されているアッテネータは、減衰範囲が 0~40dB、減衰ステップが 5dB程度のものが一般的です。
ミキサー
ミキサーは前述したとおり、周波数を変換する非線形の素子です。
2つの信号をミキサーに入力すると、 その2つの信号の差の周波数成分が得られます。
スペクトラムアナライザでは、①測定対象となる信号(RF信号)と②ローカル信号(LO信号)が入力され、中間周波数の信号(IF信号)が出力されます。
ミキサの出力は、2つの元の信号(fsigとfLO)に加えて、これらの2つの信号の和(fLO+fsig)周波数と差(fLO-fsig)周波数から構成されます。
そして、スペクトラムアナライザは出力として得られた和信号、または差信号を後段のフィルタに通して測定結果を表示します。
ブロック図はミキサーが1つで表現されていますが、実際のスペクトラムアナライザは機器内部のノイズの影響を排除するため数段のミキサーで構成されています。
IFフィルタ(RBW)
ミキサの出力を固定のバンドパスフィルタに通すことで、中間周波数の近傍の信号成分を取り出します。
このバンドパスフィルタのことを「IFフィルタ」と呼びます。
IFは(Intermediate Frequency)の略で、中間周波数を意味します。
IFフィルタが、スペクトラムアナライザの周波数分解能を決めることからRBW(Resolution Band Width)フィルタとも呼ばれます。
RBWはスペクトラムアナライザの分解能を設定する項目として表示されるので、多くの方が目にしたことがあるかと思います。
RBWが違うことで、スペクトラムアナライザに表示される波形が大きく変化します。
さらにRBWの設定によって、取り込まれる雑音レベルも変わることから、RBWによってノイズフロアのレベルも変化します。
つまり、RBWを小さくすることでノイズフロアを下げることができます。
RBWフィルタで少しややこしいのがEMIレシーバーとの違いです。
EMIレシーバーのRBWの帯域幅は -6dBの幅で表されますが、スペクトラムアナライザは -3dBの幅で表されます。
また -60dBの帯域幅と -3dBの帯域幅の比をとったものが「選択度」で、バンドパスフィルタの特性を表します。
対数増幅器(ログアンプ)
ログアンプは出力信号が入力信号の対数に対応する特殊なアンプで、スペクトラムアナライザのような、ダイナミックレンジの大きい信号を一括して測定するときに使用されるアンプです。
検波器(ディテクタ)
ログアンプで増幅された信号は、検波器によって直流に変換されます。
最近のスペクトラムアナライザは検波をデジタル処理で行っているため、多彩な検波機
能を持っています。
ポジティブピーク・ディテクタは、信号のピーク値を捕捉して表示します。
ネガティブピーク・ディテクタは、各ビンの信号の最小値を捕捉します。
どちらのディテクタも正弦波の解析に優れていますが、正弦波が存在しない場合、ノイズに過剰反応する傾向があります。
サンプル・ディテクタは、データの各「ビン」のランダム値が表示され、ノイズまたはノイズに似た信号の実効値を計算するのに最適です。
ただし、RBWがビンの周波数間隔より狭い場合は、バースト信号や狭帯域信号のピークを見逃す可能性があります。
信号とノイズの両方を表示するためには、ノーマル・ディテクタを使用します。
EMIレシーバーでは上記のディテクタに加えて、「CISPR 16-1」で規定されている「尖頭値検波」「準尖頭値検波」「平均値検波」が用いられます。
準尖頭値検波は、QP検波とも呼ばれ、エミッション試験で限度値として使用されるものです。QP値の概要は「QP値を考える」を参考にしてみてください。
ビデオフィルタ(VBW)
VBW(Video BandWidth)フィルタはいわゆるローパスフィルタで、検波された信号の時間変動に対するフィルタとして働きます。
VBWフィルタは、ノイズレベルに埋もれた微弱な信号を測定する場合に効果的です。
ただし、パルス的な信号を測定する場合にVBWを低くしすぎると、信号を正しく表示できなくなるため注意が必要です。
おわりに
スペクトラムアナライザの測定原理を紹介しました。
ブロック図だけをみると、少し難しく感じますが、ひとつひとつの機能に分解してみると、それぞれの役割が明確になると思います。
さらに理解を深めたい方には「スペクトラム・アナライザ入門」がオススメです。
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ひとつひとつの機能が図説されているので、実際の測定をイメージしながら理解を深めることができます。ワンランク上の技術者を目指すためには、手元に置いておきたい一冊です。
最近は、Amazonでも「スペクトラムアナライザ」が売られています。
格安で高スペックなものもあるので、いろいろ比較してみると面白いですよ。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
いつも分かりやすい解説ありがとうございます。
ブログと動画のおかげでかなりスパアナについての知識が深まった気がします。
EMC初心者で何か困った事があればエンジャーさんのブログを駆け込み寺のように活用させて頂いています。
またお時間のある時で構いませんので、今回のようにEMC初心者でも分かるようなEMIレシーバの記事を書いて頂けるとめちゃくちゃ有難いです。
なかなか調べてもEMIレシーバに特化した記事やサイトが無くて知見が増やせず困っています。
コメント頂き、ありがとうございます。
お役に立てているようで何よりです。
EMIレシーバの件、承知しました。すぐは難しそうですが、時期を見て投稿してみますね。