EMIレシーバは、エミッション試験で限度値適合を評価するための計測器ですが、最近はスペクトラムアナライザと一体化されているため、それぞれの違いについて意識することは少ないです。
そこで今回の記事では、EMIレシーバとスペクトラムアナライザの違いについて解説します。
動画はこちら↓
EMIレシーバのブロック図
EMIレシーバの内部構成は、スペクトラムアナライザの内部構成と非常に似ています。
ちなみにスペクトラムアナライザの内部構成は、こちらの記事からご確認ください。
そしてEMIレシーバとスペクトラムアナライザの違いとしては、以下の3つが挙げられます。
- プリセレクタの有無
- RBWの定義
- 専用検波器の有無
プリセレクタの有無
プリセレクタは、ミキサーの前段に存在する帯域制限用のフィルタです。
ミキサーは、規定以上の広帯域ノイズが入力されると、出力に歪みや相互変調が生じてしまい、正しくノイズレベルが測定できなくなります。
そのため、エミッション試験用の計測器であるEMIレシーバにはプリセレクタが必須となっています。
このプリセレクタは、周波数帯ごとに回路が細かく分かれており、例えばRohde & Schwarz製のEMIレシーバ ESW の場合、測定帯域に応じて21種類のフィルタ回路が切り替わるようになっています。
RBWの定義
EMIレシーバのRBWは、中心周波数のレベルから-6dB低下した点の幅で規定されています。(スペクトラムアナライザの場合 -3dB)
このRBWの定義の違いは、つまりフィルタの急峻さに違いがあることを意味し、数値上は同じ帯域幅であっても、EMIレシーバの方がより狭い周波数範囲のノイズレベルを測定することができます。
また帯域幅の設定についても、EMIレシーバはCISPRバンド幅で規定されている周波数に限定されており、測定周波数に応じ切り替えることになっています。
CISPRバンド | 周波数範囲 | 帯域幅 |
A | 9kHz ~ 150kHz | 200Hz |
B | 150kHz ~ 30MHz | 9kHz |
C, D | 30MHz ~ 1GHz | 120kHz |
E | 1GHz ~ 18GHz | 1MHz |
専用検波器の有無
EMIレシーバは、エミッション規格の限度値として規定されている「QP値」「CISPRアベレージ値」「RMSアベレージ値」が測定できるよう専用の検波器が搭載されています。
QP値については、以下の記事にて解説しています。
CISPRアベレージ検波器
近年のEMIレシーバは、デジタル処理による検波器が内蔵されていますが、単純なアベレージ検波では従来の機械式のEMIレシーバとの間に差異が生じてしまいます。
そこで、その差異を無くすために導入されたのがCISPRアベレージ検波器で、従来のアベレージ検波器と比較して、繰り返し周波数が低いノイズに対する重みをが異なります。
また同じパルス周波数で比較すると、パルス幅が広いノイズ対してCIPSRアベレージ検波器の方が高い値を示します。
RMSアベレージ検波器
RMSアベレージ検波器は、デジタル通信への妨害を評価すために導入された検波器です。
アナログ通信への妨害に適したQP検波器と比較してやや重みが小さくなっており、QP検波と平均値検波の間の値を示します。
おわりに
今回は、EMIレシーバとスペクトラムアナライザの違いについて解説しました。
最近は、EMIレシーバとスペクトラムアナライザが一体化され、かつGUIも統一されているため、それぞれの違いについて意識することはかなり少なくなっています。
加えて、エミッション試験用の自動測定ソフトウェアが導入されているため、EMIレシーバを直接操作する機会が少なくなっているかと思いますが、正しいEMC試験を行うためにもその違いについて理解しておくことは大切です。
EMIレシーバの仕様については、CISPR16-1-1 から確認できます。
また、EMCを基礎から学ぶための書籍を執筆しました。
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スペクトラムアナライザとEMIレシーバの概要についても解説しているので、興味のある方はチェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。