今回はリアルタイムスペアナ(RSA3045-TG)の原理とノイズ対策における活用方法について解説します。
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スペアナの方式
スペアナには「掃引式」と「リアルタイム式」の2つの方式があります。
この2つの方式にはそれぞれ良い点と悪い点があるので、実務においてはこれらの違いを理解して適切に使い分けることが大切です。
掃引式
掃引式はスーパーヘテロダイン方式とも呼ばれるもので、従来のスペアナはすべて掃引式でした。
メリット
掃引式のメリットはノイズレベルが低いことです。これは掃引式の測定原理によるもので、IFと呼ばれる中間周波数に変換したときに不要なノイズを取り除くため、ノイズレベルが低くなります。
掃引式のノイズレベルは分解能帯域幅 RBWによって変化し、分解能が高い(RBWが小さい)ほどノイズレベルが低くなります。
デメリット
一方で掃引式のデメリットは、間欠的な信号に対して取りこぼしが多いことが挙げられます。
これは掃引式が周波数ごとのレベルを順番に測定していくためで、測定対象となる周波数以外のところに信号やノイズが存在していてもそれらを観測できません。
この掃引式のデメリットは間欠的に生じるノイズに対しては特に相性が悪く、正しい測定を行うためには熟練の技術が必要とされています。
用途
そのため掃引式の用途としては、搬送波などの定常的に発生している信号を測定するのに向いていると言えます。
リアルタイム式
リアルタイム方式は、デジタル技術の発展によって登場した比較的新しいタイプの測定方式で、掃引式と反対のメリット・デメリットを持ちます。
メリット
まずメリットについては、1回の測定で広帯域の信号を一気に測定できることが挙げられます。この一気に測定可能な周波数範囲は、スペアナ内部のADコンバータのサンプリングレートによって規定されおり、サンプリングレートが高いものほど帯域幅が広くなります。
またリアルタイム式ではFFTによって周波数変換が行われますが、信号の取りこぼしが発生しないようにサンプリングフレーム間をオーバラップさせています。
このようにサンプリングフレーム間をオーバーラップさせることによって、過渡的に発生する信号やノイズに対してもすべて補足することできます。
デメリット
一方でデメリットは、ADコンバータのサンプリングレートによって取り込み帯域幅が規定されることによって、スパンや分解能の設定に制限が生じることが挙げられます。
具体的には、スパンは取り込み帯域幅以下となり、また分解能についてはスパンの設定とFFTのポイント数によって自動的に決定されてしまいます。そのため掃引式のときのように分解能を任意の値に設定することはできません。
もう一つのデメリットはノイズレベルが高いことが挙げられます。この理由はリアルタイム式が広帯域を一気に取り込めるがゆえに、帯域全体のパワーがノイズとして見えてしまうためです。
用途
そのためリアルタイム式はダイナミックレンジの大きい信号を測定するのにはあまり向いておらず、リアルタイム性が要求されるような間欠的な信号やノイズの測定に向いていると言えます。
RSA3045-TGのスペック
今回使用するスペアナはリゴル製のRSA3045-TGです。
このRSA3045-TGは、掃引式とリアルタイム式を切り替えて使用できるため、観測対象の信号の性質に応じて動作モードを選択することができます。
スペック詳細
周波数範囲が 9kHz ~ 4.5GHzで、リアルタイム方式における帯域幅が最大40MHzとなっています。リアルタイム帯域幅についてはデフォルトは10MHzですが、オプションを開放することで40MHzまで対応できます。
その他の特徴としては、型式の末尾にTGがついているものはトラッキングジェネレータ付きのモデルとなります。
トラッキングジェネレータは掃引信号を出力信号として扱える機能で、アンプやフィルタなどの通過特性を測定することができます。
操作方法
測定条件の設定方法については、動画を参照ください。
掃引式とリアルタイム式の違い
掃引式とリアルタイム式の波形の見え方の違いを確認するために、チャープ信号を入力してみます。ここでは80MHz~120MHzの範囲で、時間経過ともに周波数を変化させています。
掃引式
掃引式は掃引のタイミングとチャープ信号のタイミングが同期されていないため、まばらにしか信号を補足できていません。
リアルタイム式
一方でリアルタイムでは帯域内にある信号を一括して測定できるため、信号を取りこぼすことなく周波数が遷移していく様子を観測できます。
この結果を見てわかるように、掃引式は時間的に変化するような信号は非常に苦手としており、反対にリアルタイム式は信号が測定帯域内に収まってさえいればどのような信号も連続して測定可能です。
伝導エミッションノイズでの活用
ここではUSB充電器(Anker製 GaNPrime 120W) の過電流保護が働いたときのノイズレベルを測定しています。
リアルタイム式においては、USB充電器の動作モードが切り替わるタイミングでスイッチング周波数が変化している様子を確認できます。
このように間欠的、瞬間的に変化するノイズは掃引式が最も苦手とするところなので、正しい評価を行うためにはリアルタイム式が必要不可欠と言えます。
近傍界プローブでの活用
ノイズ対策において、リアルタイム式にはもう一つメリットがあります。それが狭帯域ノイズと広帯域ノイズの識別です。
ここでは近傍界プローブを使ってノイズ発生源を調査しています。
近傍界プローブはその名の通り、プローブ周辺の磁界や電界を検出するための小さいアンテナのようなもので、プリント基板の様々な箇所に近づけることでノイズ発生源を判別することができます。
このときリアルタイム式ではデンシティ表示することによって、ノイズの発生頻度を色で識別することができます。
このとき狭帯域ノイズは常に一定のレベルで存在しているため、レベルの高い広帯域ノイズが存在していたとしても、色の違いから狭帯域ノイズを見つけ出すことができます。
このようなノイズの切り分けができると、狭帯域ノイズの発生源を探ることも容易になります。
トラッキングジェネレータ
最後にトラッキングジェネレータ機能について簡単に紹介します。
トラッキングジェネレータは掃引信号を利用して高周波部品の損失やゲインを測定できます。ネットワークアナライザのS21を測定しているようなものですが、振幅しか測定できないためスカラーネットワークアナライザに近い機能になります。
なおトラッキングジェネレータにはキャリブレーションという概念はありませんが、同軸ケーブルを直結した状態でノーマライズを行うことで基準値に対する差分を測定できます。
おわりに
今回はリアルタイムスペアナの原理やノイズ対策における活用方法について解説しました。
リアルタイムスペアナは使いこなせるようになると、非常に強力な武器として実務に役立てることができます。
今回使用したRIGOLのRSAシリーズでは掃引式とリアルタイム式を切り替えて使用できるため、従来のスペアナの代用としてはもちろん、新たにスペアナを導入する方にも非常におすすめの機種です。
興味のある方はぜひチェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。