この記事ではスペクトラムアナライザと近傍界プローブを使った実践的なノイズ対策のテクニックについて解説しています。
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ノイズ対策の考え方
電子機器の開発現場ではノイズレベルが規制の限度値以下となるようノイズ対策が必要とされています。その中でノイズ対策を効率良く進めるためにどうすれば良いかというと、それはできるだけ正確にノイズ源を見つけ出すことです。
ノイズ対策では「ノイズ源」「伝播経路」「ノイズの影響を受ける機器」の3つの要素に分けて考えます。ここでノイズ源を効率よく特定することができれば、それ自体を抑え込むことで根本的なノイズ対策を行うことができます。
ノイズ源の見つけ方
ノイズ源を特定するために必要となるのが「スペクトラムアナライザ」と「近傍界プローブ」です。
スペクトラムアナライザは、周波数別にレベルを測定することができる計測器です。
近傍界プローブは、ノイズ対策以外の場面ではあまり目にする機会がないかもしれませんが、プローブ近傍の電界や磁界を検出できる一種のアンテナです。
近傍界プローブは、アンテナとしての感度が低いがゆえに測定位置に対する分解能が高く、ノイズ源を見つけるためのツールとして非常に重要な役割を果たします。
実験室での放射ノイズ測定
ここからは実験室でもできるノイズ対策の進め方を紹介します。
測定対象
ここではEUTとなる評価ボードと受信アンテナとなる短縮ホイップアンテナを使って、放射ノイズを測定します。
今回はプリント基板をEUTとしていますが、実際には開発している電子機器をアンテナから少し離した位置に設置して測定します。
操作方法
スペクトラムアナライザを使ってノイズレベルの高い周波数を探します。
周波数軸の設定
スペクトラムアナライザの使い方としては、問題となるおおよその周波数をもとに中心周波数を設定します。(ここでは575MHz)
つづいてノイズを見つけ出しやすいようにスパン(SPAN)を設定します。スパンの大きさについてはノイズの性質、つまり広帯域ノイズが狭帯域ノイズによって適切な値が変わります。
縦軸(レベル)の設定
周波数の設定が完了したら、次に縦軸のレベルに関する設定を行います。
まずは縦軸の単位を設定します。無線の世界では「dBm」を用いることが多いですが、EMCの世界では「dBuV」の単位がよく使用されています。
そしてリファレンスレベルとスケールを設定します。
波形の見え方の設定
この状態でノイズを確認しづらいと感じたら、アッテネータと分解能を変更します。
アッテネータにの値を変更すると波形全体のレベルも変わるので、波形が見やすくなるようにリファレンスレベルを再度調整します。またノイズを細かく分析するときには分解能帯域幅(RBW)を小さい値に設定します。(ここではRBWを10kHzとしています)
ノイズ源の確認
本当にEUTからノイズが放射されているのかを確認するには、EUTの電源をON・OFFするとわかりやすいです。
ここでは評価ボードに接続されている電源ケーブルを抜いてみると、波形中央のピークが瞬時に消失していることが確認できます。
なお更に周波数を追い込みたい場合は、スパンと分解能を再調整することでより細かく表示することができます。またマーカーのピーク検出機能を使えば、最大値を示す周波数を簡単にピックアップすることができます。
ノイズ源の特定方法
ノイズの問題となる周波数が特定できれば、近傍界プローブを使ってノイズ源を調査します。
近傍界プローブの種類
今回は電界と磁界がそれぞれ2種類同梱されたプローブキットを使用します。
このうち先端が少し尖った2つ(右側)が電界を検出する用のプローブです。電界プローブの原理は、静電容量式のタッチパネルと似たようなもので、近傍の電圧の変化を検出することができます。
一方で磁界プローブ(左側)は、先端に磁界検出用のループアンテナが搭載されています。ループアンテナなのでループ部分を鎖交する磁束、つまり電流を検出することができます。
ループサイズによってアンテナの感度が異なり、ノイズ対策ではループ径の大きいタイプでおおよそのノイズ源を見つけ出し、そこからループ径の小さいタイプで厳密なノイズ源やノイズのルートを特定していきます。
ノイズ源調査(ざっくり)
まずはループ径の大きい磁界プローブを使って、ざっくりとノイズ源を調査します。
磁界プローブは先端の向きによってレベルが変化します。
この理由はループアンテナの向きによってループを鎖交する磁束の量が変化するためです。この性質をうまく使えれば、ノイズが流れている電流の向きも見極めることができます。
このあたりは実際にプローブの向きによってノイズレベルが変化する様子を確認してみると、ノイズ電流の向きというのがよくわかります。
ノイズ源調査(詳細)
ループ径の大きいプローブでおおよそのノイズ源が特定できれば、ループ径の小さいプローブに変更してノイズ源の特定します。
ここではプリント基板中央のFPGAあたりでノイズレベルが最も高い値を示しているため、そのあたりを重点的に測定していきます。
ノイズ対策手段
するとFPGAの下側のあたりで最も高い値を示し、さらに細かく調査すると抵抗「R16」「R17」「R18」に接続されている伝送線路で最も高いレベルを示していることがわかりました。
例えばノイズ対策の手段としては、FPGAに接続されている抵抗(ダンピング抵抗)の抵抗値の値を大きくして、波形を鈍らせるといった対策が考えられます。
このようにノイズ源をきちんと特定できれば、闇雲にノイズ対策するよりも遥かに効率よくノイズ対策を完了させられます。
ソフトウェア的なノイズ対策
この伝送線路は外部へクロック信号を供給するための信号線となっており、この信号の周波数自体をソフトウェア的に変更するのも有効なノイズ対策の手段です。
この評価ボードではプリント基板裏面のスイッチによって発振周波数を切り替えられるようになっています。
もともとの25MHzから1MHzに変えてみると、ノイズレベルが大幅に低減します。
ノイズ対策ではハードウェアを中心に対策手法を考えてしまいがちですが、実はこのようにソフトウェア的にノイズを低減できるということもあります。
このあたりのノイズ対策のアイデアもノイズ源を明確に特定できてこそ生まれてくるものです。ノイズ対策にかかる工数はもちろん、部品費用を削減するという意味でも近傍界プローブを使ったノイズ源の調査は有用といえます。
まとめ
今回はスペクトラムアナライザと近傍界プローブを使ったノイズ源の調査方法について解説しました。
ノイズ対策ではある程度の実務経験が必要となりますが、今回紹介した手法を用いることで経験の浅いエンジニアの方でも効率よくノイズ対策を進められるようになります。
実際のノイズ対策の部分ではもちろん試行錯誤は必要となりますが、客観的なデータをもとにノイズ源を特定できていれば、周囲からのアドバイスも貰いやすくなるはずです。
スペクトラムアナライザや近傍界プローブも近年は非常に安くなっており、費用対効果を考えても試す価値は充分あるといえます。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。