EMCエンジニアにとって必須の資格といっても過言ではない 「iNarte EMCエンジニア」と「iNarte EMCテクニシャン」。
試験の難易度は過去の記事でもご紹介していますが、合格率を下げる要因は出題範囲の広さだと思います。そのためこの記事では、それぞれの分野でオススメの参考書を紹介します。
出題範囲
主催者が出題範囲を公表していますが、概要がつかみづらいので簡単に分類してみます。
まずは、基礎となる項目を4つに分類します。
- 電磁気学
- 電気回路
- 電気数学
- EMC試験・測定方法
そして各項目ごとに、関連する技術項目を当てはめていきます。
<電磁気学>
- 電磁界理論
- アンテナ
- 電磁界の結合
- 遮蔽(シールド)
<電気回路>
- 電気回路
- 伝送線路
- フィルタ
- 増幅器 (アンプ)
- デバイス、部品
<電気数学>
- 数学基礎
- 信号と変換
- スペクトル解析
- EMI予測と解析
<EMC試験・規格>
- 用語
- 試験設備
- EMP(電磁パルス)
- 静電気放電
- 雷放電
- EMC規格
- 生体への安全性
- EMCマネジメント
若干乱暴な分類ですが、少しは見通しが良くなったのではないでしょうか?
合格点獲得を考えると、苦手な分野から勉強を始めるのがいいと思います。各項目ごとにオススメの書籍を紹介します。
電磁気学
理系なら知っておきたい 物理の基本ノート[電磁気学編]
電磁気学の知識に自信がなく、はじめから学びたい方には「理系なら知っておきたい 物理の基本ノート」がオススメです。
電磁気学の基本の「クーロンの法則」から「マクスウェルの方程式」に至るまで、細かな数式をできる限り省略し、図説することで電磁気学の本質が理解できる構成となっています。付録として記載されている「公式一覧」も iNarte資格試験で意外と役立つのが嬉しいポイントです。
試験対策だけでなく、電磁気学を学び直す意味でも最適な一冊と言えます。
アンテナ基本測定法
アンテナや電波伝搬については、わたしは「無線工学B」の参考書を使って勉強しました。しかし、本質を理解したい方には「アンテナ基本測定法」をオススメします。
ある程度「高周波」や「電磁気学」の知識を持っている方向けの書籍ですが、この一冊でアンテナの基本的な原理から実用的な評価方法まで一通り理解できるようになります。
iNarte資格試験においては、アンテナの「実効電力」「入力インピーダンス」「VSWR」の計算などで大いに参考になると思います。
アンテナの計算問題が苦手な方におすすめの一冊です。
電磁波計測―ネットワークアナライザとアンテナ
高周波の計測原理を理解するには「電磁波計測―ネットワークアナライザとアンテナ」がオススメです。前述の「アンテナ基本測定法」と合わせて読むと、アンテナの諸特性を実際に計測器でどのように算出しているのか理解が深まると思います。
試験時には、伝送線路の「入力インピーダンスの計算」や「計測器のキャリブレーションの原理・計算」などで役立つ内容となっています。
高周波の計算問題に不安を感じる方にオススメです。
電気回路
高速デジタル信号の伝送技術
「伝送線路」の分野は、KECの公式参考図書として挙げられている「高速デジタル信号の伝送技術」。
重厚かつ高価な書籍ですが、伝送線路に関する知識はすべて網羅できます。この一冊で、伝送線路の計算はもちろん、シグナル・インテグリティに関わる問題にも全て回答できるはずです。
本質が非常にわかりやすくまとまっており、実務においてもオススメできる良書です。
高速ディジタル回路実装ノウハウ
「高速デジタル信号の伝送技術」が高価で、”そこまでお金を出せないよ”という方には「高速ディジタル回路実装ノウハウ」。
実務向けの「ノウハウ」中心の内容ですが、試験対策としても十分活用できると思います。「電子部品の基礎知識」やプリント基板の「インピーダンス整合の計算」などで役立つ内容となっています。
高周波回路設計のためのSパラメータ詳解
「高周波回路設計のためのSパラメータ詳解」は高周波の理論、特にSパラメータを理解するために必須の一冊です。
Sパラメータの計算は多くの方が躓きやすいポイントの一つです。
この書籍も一見すると字が詰まっていて難しそうに感じますが、ひとつひとつの式が丁寧に解説されているので、ゆっくり落ち着いて読めばSパラメータの取り扱い方について理解できるようになります。
Sパラメータの攻略は「アンプ」や「フィルタ」の計算を特上で非常に重要となるので、是非とも苦手意識を無くしておきたいですね。
高周波回路の設計と製作
実際の高周波デバイスの役割を理解するには「高周波回路の設計と製作」がオススメです。
「アッテネータ」「方向性結合器」「アンプ」「フィルタ」「ミキサー」・・・。
高周波計測やEMC試験で必要となる「部品」や「回路」の実例が全て網羅されていると言っても過言ではないほど、設計例が豊富に紹介されています。
iNarteの試験対策としてはもちろん、いちEMCエンジニアとしても知っておきたい内容が満載です。
電子部品 超入門
抵抗・コイル・コンデンサの基礎知識については、「電子部品 超入門」がおすすめです。
このブログやYouTubeで公開している情報の有益な部分のみを集めて、一冊の書籍にまとめており、電子部品の基礎知識を網羅的に理解するには最適の一冊です。
電子書籍であるため、文字検索できるというのも試験対策用の書籍として優れている点と言えます。
電気数学
電子回路設計のための電気/無線数学
数学の基礎は「電子回路設計のための電気/無線数学」。
著者の石井先生は「アナログ・デバイセズ社」のエンジニアとして有名で、アナログ回路や高周波回路に関する数多くの解説本を出版されています。
本書では、とっつきづらい数式を平易な表現で解説してくれています。特に「複素数」「ベクトル」「微分・積分」など躓きやすいポイントに多くのページを費やして解説されているので、数式に苦手意識を持っていた方には特にオススメです。
「理系なら知っておきたい 物理の基本ノート」と合わせて、まずはじめに読んでおきたい一冊と言えます。
無線通信とディジタル変復調技術
変調に関しては、わたしは「無線工学A」で勉強しましたが、変調そのものを理解するには「無線通信とディジタル変復調技術」の方がオススメです。
ディジタル変調がメインの内容ですが、「アナログ変調」についても解説されています。多くのイミュニティ試験で利用されている「AM変調」だけでなく、それ以外の変調を学ぶことで知識の幅を広げることができます。
試験対策として必須ではありませんが、変調の理解を深めるには最適な一冊です。
道具としてのフーリエ解析
EMCエンジニアは信号処理やスペクトル解析は苦手な方が多いと思います(笑)
本質を理解するより、試験問題を解くことに注力している方がほとんどでしょう。ただそれだけでは、あまりにももったいないですよね。
スペクトル解析も基礎からしっかり学べば、一定の水準で理解することはできます。「道具としてのフーリエ解析」では数学の基礎の部分から、スペクトル解析で必須となるフーリエ変換を図解をもとにわかりやすく解説しています。
「先生」と「生徒」の会話形式で読み進めやすいことも好感が持てるポイントです。
EMC試験・規格
EMC試験に関する書籍は、規格書以外に思い当たりません。それぞれの規格書を丁寧に読むだけです。
iNarte資格試験では、規格書をどれだけ準備できるかが1つの重要なポイントです。お金をかけて準備できない方は「 http://kikakurui.com/ 」や「 総務省の国内答申 」でメジャーな規格書をPDF化しましょう。
電磁両立性(EMC) (JISハンドブック)
IEC61000-4シリーズを網羅するなら、JISのハンドブックがオススメです。やはりハードとして、規格書を手元に用意しておくと安心できます。
安心感を得るということも、試験時には意外と大切です。
ノイズ解決の早道六法
ノイズ対策の決定版とも呼べる書籍。
日本を代表するEMC技術者が翻訳を務めており、内容の質、網羅性ともに文句なしです。EMC設計に関する問題は全て対処できるほか、「電子部品」や「電磁波シールド」関連の知識も補填できます。
試験対策として必須の一冊と言えるでしょう。
おわりに
出題範囲を分類し、分野別にオススメの書籍を紹介しました。
すべての資格試験に共通しますが、問題を解く練習をするのが最も効率的です。
iNarte資格試験向けの問題集といえば、中部エレクトロニクスが出版している「iNARTE 受験対策問題集」。まずはこの問題集から始めてみて、苦手だなと感じた分野の参考書を購入するのが最も効率的と思います。
今回は以上です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。