設計開発の現場において、最も使用頻度の高い計測器が「オシロスコープ」です。
オシロスコープは電圧や電流の時間変化を計測するための測定器で、信号ラインや電源ラインの波形観測はもちろん、通信ラインのプロトコル解析や不具合回路のデバッグ解析などの多岐にわたります。
そして、もちろん「EMC試験」や「ノイズ対策」にも使用されます。
しかし、EMCエンジニアは普段「スペクトラムアナライザ」による周波数ドメインの解析がメインであるため「オシロスコープ」の取り扱いが苦手な方が多いです。
そこで今回の記事では、オシロスコープの「基本的な仕様」と「EMC分野での活用方法」について紹介します。
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オシロスコープとは
今更ですが、少しおさらいです。
オシロスコープとは、時間の経過と共に変化する電気信号を観測するための計測器です。
電気信号としては「電圧」以外にも、先端に使用するプローブによって「電流」や「音」なども計測することができます。
また、波形同士で演算処理することもできます。
オシロスコープの基本性能
オシロスコープを使用する上で、基本的な性能を確認しましょう。
チャンネル数
チャンネル数は同時に観測可能な信号の数を表しており 2CHや 4CHのものが一般的です。
マイコンを使った簡単な電子工作であれば2CHのものでも十分ですが、複数のインターフェース機能を持つデバイスに対して使用する場合には4CHのタイプがあると便利です。
周波数帯域
周波数帯域は観測可能な最大の周波数を表すもので、必要となる周波数帯域は観測対象となる波形の種類によって異なります。
例として、正弦波であれば基本波の5倍、パルス波形の場合は基本波の10倍程度の周波数帯域がないと波形を正しく表示できないと言われています。
一般的なマイコンボードは数MHz~数10MHz程度で動作するものが多いので、100MHzあたりを基準にして選んでおくと様々な用途に対応できます。
サンプリングレート
サンプリングレートは 1秒間に測定を行う回数(時間分解能)を表すパラメータで、S/s(Sample/Second)やSPSといった単位で表されます。
サンプリングレートが高いほど高速な信号を精度よく測定できるため、複数の信号間のディレイを測定したり、リンギングによるロスを測定したい場合には高いサンプリングレートが必要になります。
垂直分解能
垂直分解能は電圧の分解能を表すパラメータです。
一般的なオシロスコープは 8bit(256階調)です。測定範囲が 0~5Vとすると 1LSBあたり 19.5mVになります。一方で最近のオシロスコープは 12bit(4096階調)の分解能を持つものが増えてきています。12bitの場合では、同じ 0~5Vの測定範囲であっても 1LSBあたり 1.2mVの精度で測定できます。
ビット数が高いほど高い精度で測定できるため、回路のADコンバータよりも分解能が高いオシロスコープを使用することでデバッグが容易になります。
エイリアシング
性能とは違いますが、オシロスコープを使用する上で注意すべきこととして「エイリアシング」が挙げられます。
入力信号にサンプリング周波数の半分以上の高周波成分が含まれていると、実際の信号より低い周波数の信号として現れます。
この現象をエイリアシング(折り返し現象)と言います。このエイリアシングを防ぐためには、「アンチエイリアシングフィルタ」と呼ばれるローパスフィルタを使用する必要があります。
EMC分野での活用例
イミュニティ試験における波形観測
最もよく使用するのが「イミュニティ試験における波形観測」です。
これらの用途では、高電圧を測定することが多いため「高電圧プローブ」を使用する必要があります。
通常の電圧プローブは電圧比が「10:1」ですが、高電圧プローブは電圧比を「100:1」や「1000:1」とすることで高電圧を測定できます。
一方で、周波数帯域は狭くなりやすいため、高周波信号の測定にはあまり適していません。
ノイズ対策におけるデバッグ
もう一つの用途が「ノイズ対策におけるデバッグ」です。
最近のオシロスコープには「FFT機能」が搭載されており、時間ドメインの波形を周波数ドメインに変換することで、周波数を絞り込んで解析することができます。
この例でもあるように「電圧プローブ」「電流プローブ」「磁界プローブ」を組み合わせて、「ノイズ発生源」と「ノイズ放射源」を切り分けて測定することが可能になります。
スペクトラムアナライザでは「電圧プローブ」を使用して測定することができないので、オシロスコープならではのデバッグ方法といえますね。
ただし、オシロスコープはスペクトラムアナライザと比較してダイナミックレンジが小さいため、低いレベルの信号を測定する用途には適していません。
使い分けが大事です。
オシロスコープとスペクトラムアナライザの違い
同じ周波数解析ですが「オシロスコープのFFT」と「スペクトラムアナライザ」では、得意分野が異なります。
オシロスコープの測定原理
オシロスコープは前述の通り、測定の分解能が8bit程度であるため小レベルの信号や微小なノイズの測定には適していません。
つまり、放射エミッション試験で限度値をオーバーするようなレベルの高い信号には適していますが、受信感度の限界値を調べるような用途には適していないと言えます。
また、信号を取り込む期間(時間範囲)はメモリの容量によって短時間に限定されるため、スペクトラムの変化を連続的に観測することはできません。
スペクトラムアナライザの測定原理
掃引型のスペクトラムアナライザは、ミキサーを使用して周波数を掃引するため広帯域、かつ高精度な測定が可能です。
スペクトラムアナライザの詳細な測定原理については、下記の記事で解説しています。
この方式の欠点は、掃引時間によってノイズの取りこぼしが多発することです。
測定する周波数帯域を狭くしたり、マックスホールド機能を使用することで、取りこぼしを多少緩和することはできますが、根本的に解決することはできません。
リアルタイムスペクトラムアナライザ
掃引型スペクトラムアナライザの欠点を解決したものが「リアルタイムスペクトラムアナライザ」や「リアルタイムシグナルアナライザ」と呼ばれる計測器です。
メーカーによって定義が少し異なりますが、いわゆる「オシロスコープ」と「スペクトラムアナライザ」のいいとこ取りをしたものです。
ミキサーを使用して周波数帯域を制限するとともに、必要な時間範囲をメモリから呼び出してFFT解析することで、取りこぼしなくスペクトラムを連続的に観測することができます。
ノイズ対策におけるデバッグの用途では「リアルタイムスペクトラムアナライザ」が最も適しています。
おわりに
オシロスコープの「基本的な仕様」と「EMC分野での活用方法」について紹介しました。
最近のオシロスコープには様々な解析機能が搭載されており、全て使いこなすのは不可能と言えるほどです。
ただし、どんな解析機能を使用する場合にも、測定の基本は同じです。
まずは基本機能をしっかりと理解しましょう。
基本を学ぶ上では「ディジタル・オシロスコープ実践活用法」がオススメです。
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今回の記事では触れていないプロービングのテクニックなども紹介されているので、まさに実践で役立つ内容です。
是非チェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。