設計開発の現場において、最も使用頻度の高い計測器が「オシロスコープ」です。
オシロスコープは電圧や電流の時間変化を計測するための測定器で、信号ラインや電源ラインの波形観測はもちろん、通信ラインのプロトコル解析や不具合回路のデバッグ解析などの多岐にわたります。
そして、もちろん「EMC試験」や「ノイズ対策」にも使用されます。
しかし、EMCエンジニアは普段「スペクトラムアナライザ」による周波数ドメインの解析がメインであるため「オシロスコープ」の取り扱いが苦手な方が多いです。
そこで今回の記事では、オシロスコープの「基本的な仕様」と「EMC分野での活用方法」について紹介します。
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オシロスコープとは
今更ですが、少しおさらいです。
オシロスコープとは、時間の経過と共に変化する電気信号を観測するための計測器です。

電気信号としては「電圧」以外にも、先端に使用するプローブによって「電流」や「音」なども計測することができます。


また、波形同士で演算処理することもできます。

オシロスコープの基本性能
オシロスコープを使用する上で、基本的な性能を確認しましょう。
周波数帯域
オシロスコープはローパス周波数応答を持ち、高い周波数では周波数応答が低下します。
オシロスコープの周波数帯域は、入力された正弦波信号が 3dB減衰する周波数として定義されています。

つまり、オシロスコープの周波数帯域は測定対象とする信号に含まれるすべての周波数成分をカバーしておく必要があります。
信号に含まれる周波数成分は、信号の立上り時間によって決まり、パルス波形の場合は基本波だけでなく10次高調波程度までをカバーする必要があります。

サンプリング周波数(サンプリングレート)
単位時間あたりに計測する回数を表すパラメータです。
単位は一般的には「Hz」が使われますが、「sps」で表すこともあります。

周波数帯域幅が最高周波数の正弦波を表すものとするのであれば、サンプリングレートは単純に、オシロスコープがAD変換するタイミングのレートです。
サンプリングレートは周波数帯域幅のおおよそ5倍程度が必要と言われます。
レコード長
レコード長は、信号を取込んで保存できるサンプル数です。
保存できるポイント数(データ量)は限られているため、波形を取込める時間はオシロスコープのサンプリングレートに反比例します。
レコード長が長い程、高い分解能(高サンプルリングレート)で長時間波形を取込むことができます。

垂直軸分解能
オシロスコープのADコンバータの分解能の性能を表すものです。
12ビットのADコンバータは4096段階のレベルを測定できますが、8ビットのADコンバータの場合は256段階のレベルでしか測定できません。

エイリアシング
性能とは違いますが、オシロスコープを使用する上で注意すべきこととして「エイリアシング」が挙げられます。

入力信号にサンプリング周波数の半分以上の高周波成分が含まれていると、実際の信号より低い周波数の信号として現れます。
この現象をエイリアシング(折り返し現象)と言います。
エイリアシングを防ぐためには、「アンチエイリアシングフィルタ」と呼ばれるローパスフィルタを使用する必要があります。

EMC分野での活用例
イミュニティ試験における波形観測
最もよく使用するのが「イミュニティ試験における波形観測」です。

これらの用途では、高電圧を測定することが多いため「高電圧プローブ」を使用する必要があります。
通常の電圧プローブは電圧比が「10:1」ですが、高電圧プローブは電圧比を「100:1」や「1000:1」とすることで高電圧を測定できます。
一方で、周波数帯域は狭くなりやすいため、高周波信号の測定にはあまり適していません。

ノイズ対策におけるデバッグ
もう一つの用途が「ノイズ対策におけるデバッグ」です。
最近のオシロスコープには「FFT機能」が搭載されており、時間ドメインの波形を周波数ドメインに変換することで、周波数を絞り込んで解析することができます。

この例でもあるように「電圧プローブ」「電流プローブ」「磁界プローブ」を組み合わせて、「ノイズ発生源」と「ノイズ放射源」を切り分けて測定することが可能になります。
スペクトラムアナライザでは「電圧プローブ」を使用して測定することができないので、オシロスコープならではのデバッグ方法といえますね。
ただし、オシロスコープはスペクトラムアナライザと比較してダイナミックレンジが小さいため、低いレベルの信号を測定する用途には適していません。
使い分けが大事です。
オシロスコープとスペクトラムアナライザの違い
同じ周波数解析ですが「オシロスコープのFFT」と「スペクトラムアナライザ」では、得意分野が異なります。
オシロスコープの測定原理
オシロスコープは前述の通り、測定の分解能が8bit程度であるため小レベルの信号や微小なノイズの測定には適していません。
つまり、放射エミッション試験で限度値をオーバーするようなレベルの高い信号には適していますが、受信感度の限界値を調べるような用途には適していないと言えます。
また、信号を取り込む期間(時間範囲)はメモリの容量によって短時間に限定されるため、スペクトラムの変化を連続的に観測することはできません。

スペクトラムアナライザの測定原理
掃引型のスペクトラムアナライザは、ミキサーを使用して周波数を掃引するため広帯域、かつ高精度な測定が可能です。

スペクトラムアナライザの詳細な測定原理については、下記の記事で解説しています。

この方式の欠点は、掃引時間によってノイズの取りこぼしが多発することです。
測定する周波数帯域を狭くしたり、マックスホールド機能を使用することで、取りこぼしを多少緩和することはできますが、根本的に解決することはできません。
リアルタイムスペクトラムアナライザ
掃引型スペクトラムアナライザの欠点を解決したものが「リアルタイムスペクトラムアナライザ」や「リアルタイムシグナルアナライザ」と呼ばれる計測器です。
メーカーによって定義が少し異なりますが、いわゆる「オシロスコープ」と「スペクトラムアナライザ」のいいとこ取りをしたものです。

ミキサーを使用して周波数帯域を制限するとともに、必要な時間範囲をメモリから呼び出してFFT解析することで、取りこぼしなくスペクトラムを連続的に観測することができます。
ノイズ対策におけるデバッグの用途では「リアルタイムスペクトラムアナライザ」が最も適しています。

おわりに
オシロスコープの「基本的な仕様」と「EMC分野での活用方法」について紹介しました。
最近のオシロスコープには様々な解析機能が搭載されており、全て使いこなすのは不可能と言えるほどです。
ただし、どんな解析機能を使用する場合にも、測定の基本は同じです。
まずは基本機能をしっかりと理解しましょう。
基本を学ぶ上では「ディジタル・オシロスコープ実践活用法」がオススメです。
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今回の記事では触れていないプロービングのテクニックなども紹介されているので、まさに実践で役立つ内容です。
是非チェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。