この記事では、バリスタとアレスタが一体化された雷サージ対策部品「IsoMOV」について解説しています。
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バリスタとアレスタ
バリスタとアレスタは、いずれも高電圧のサージノイズに対してバイパス経路を与えるように作用します。
この2つの雷サージ対策部品は、それぞれに違った特徴を持ちます。
両者の違いの詳細については、以下の記事で解説しています。
IsoMOVとは
IsoMOVの外観は、バリスタと非常によく似ています。
ただし IsoMOVの内部構造を確認してみると、バリスタ(MOV)となる2枚のディスクの内側にアレスタ(GDT)が配置された構造となっています。
断面構造
IsoMOVはアレスタを薄型化する技術を利用して、バリスタとアレスタを一体化しています。
断面図を見てみると、薄型化されたアレスタが2枚のバリスタのディスクに挟み込まれるように配置されていることがわかります。
IsoMOVの利点
IsoMOVの回路は「バリスタ」「アレスタ」「バリスタ」が直列に接続された構成となっています。
この回路構成によって、バリスタとアレスタの良い点が1つの部品で得られるようになっています。具体的には「サージ耐量の向上」「漏れ電流の低減」「実装スペースの削減」の3つが挙げられます。
サージ耐量の向上
IsoMOVは内部のアレスタによって雷サージのエネルギーを吸収することができるため、バリスタと比較してより大きなサージ電流に耐えることができます。
雷サージ電流(波形8/20us)印加時の破壊試験の様子を比較すると、バリスタは3kAのサージ電流を複数回印加すると発火しながら故障します。
一方でIsoMOVは 4.5kAまでサージ電流を大きくすると破壊に至ります。このことからバリスタの1.5倍程度のサージ耐量を持つことがわかります。
また破壊時の挙動としてバリスタが発火していたのに対して、IsoMOVは破裂音がするだけで発火することはありません。このように安全に壊れてくれるのは、信頼性の高いポイントの1つと言えます。
漏れ電流の低減
バリスタと IsoMOVの挿入損失特性を比較すると、IsoMOVは50MHzにおいてロスがほとんど発生していませんが、バリスタは50MHzで 30dB以上のロスが発生しています。
これは通信ラインにおいて波形なまりを抑制でき、通信距離向上につながる結果と言えます。
また電源ラインにおいては、漏れ電流が低減されることで性能劣化の抑制、並びに製品寿命の向上につながります。部品の寿命については、特に遠隔地に設置するようなメンテナンスの難しい機器にとって非常に重要な性能で、メンテナンスコストを削減することにもつながります。
実装スペースの削減
バリスタとアレスタを個別に実装する場合と比較すると、IsoMOVはバリスタと同じスペースで実装することができます。
また IsoMOVのピンピッチは、バリスタと同じ 7.5mm または 10mmとなっているため、プリント基板を改版すること無く使用することができます。設計変更が必要ないことも、実務的な観点から非常に良い点と言えます。
サージ電流の計算方法
IEC61000-4-5などの雷サージ試験では、サージ電圧によって試験レベルが規定されています。
このときサージ電流は、サージ電圧と試験機の出力インピーダンスから計算します。
サージ電流計算における注意点
サージ電流の計算で注意すべき点として、サージの印加モードによって試験機の出力インピーダンスが異なることが挙げられます。
IEC61000-4-5では「ノーマルモードのときは2Ω」「コモンモードのときは12Ω」としてサージ電流を計算する必要があり、試験レベルをレベル4とするとノーマルモードが1kA、コモンモードが 333Aとなります。
ここで大事なことは、サージ電圧の低いノーマルモードの方が実はサージ電流が大きくなるということで、このあたりが雷サージ対策の難しいポイントの1つとなります。
IsoMOVの選び方
ここでは 15kVのコモンモードと想定(サージ電流は 1.25kA)して、IsoMOVを選定してみます。
IsoMOVの型式
IsoMOVは「最大連続動作電圧」と「電流容量」の2つの特性をもとに型式が分かれています。
最大連続動作電圧(Maximum Continuous Operating Voltage)は、いわゆる部品の最大定格電圧に相当するものです。電流容量については、IEC61000-4-5で定義されたサージ電流波形(8/20 µs)を印加したときに 10回、または15回耐えうる最大の電流値を表したものです。
いずれの特性とも値が大きくなるにつれて部品サイズが大きくなる傾向にあり、最大連続動作電圧が高い場合は厚みが、電流容量が大きい場合は円盤サイズが大きくなります。
選定手順
IsoMOVの選定手順としては「電流容量」→「最大連続動作電圧」の順に選んでいきます。
ここではサージ電流が 1.25kA(コモンモード 15kV)と想定しているので、電流容量 3kAに対応したM3シリーズを選びます。
最大連続動作電圧については、電子機器の動作電圧に対して10%程度のマージンを加えた値から選べば良いです。
そのため例えば、AC240Vで動作するものであれば「IsoM3-275」、DC200Vで動作するものであれば「IsoM3-175」を選びます。
このようにサージ電流の計算方法さえ知っていれば、IsoMOVの選定手順はそれほど難しくありません。
その他の注意点
IsoMOVの最大クランプ電圧(Maximum Clamping Voltage)が電子機器内部で使用している部品のサージ耐圧を超えていないか確認しておく必要があります。
部品のサージ耐圧が最大クランプ電圧よりも低いと、IsoMOVが機能しているにも関わらず電子機器が破壊されてしまうことになります。そのため、システム全体で雷サージ対策に不整合がないかどうかをしっかりとチェックしてください。
おわりに
今回はIsoMOVの原理や選定方法について解説しました。
IsoMOVはバリスタとアレスタが一体化された非常にユニークな雷サージ対策部品です。
雷サージ対策では一般的にバリスタが使用されることが多いですが、「雷サージ対策が不十分だったとき」「信号波形のなまりが無視できないとき」「漏れ電流による性能劣化を防ぎたいとき」などでIsoMOVを使用するメリットがあります。
今回紹介した IsoMOVは「Bourns」という海外メーカの製品ですが、日本ではグローバル電子が代理店を務めています。
日本語でのサポートにも対応しているので、興味のある方はチェックしてみてください。
今回は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。