EMC規格

自動車に求められるEMC性能

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近年、「ADAS:先進運転支援システム」「AD:自動運転」「EV:電気自動車」「HEV:ハイブリッド自動車」「ワイヤレス給電」などテクノロジーの進化によって空前の盛り上がりを見せる自動車業界。

その盛り上がりに比例するように「自動車のEMC」に関する話題も盛り上がっています。

そこで今回の記事では、「自動車に求められるEMC性能」の概要について紹介します。

動画でも解説しています。

 

自動車のEMC規格の分類

自動車のEMC規格は、「実車試験」と「部品試験」に分類されます。

実車試験は完成車の状態で実施する試験で、エミッション規格においては「CISPR12」として規定されています。

実車試験(CISPR12) 出典:FRANKONIA
実車試験(イミュニティ試験)

もう一方の部品試験は、一般的な電子部品(パーツ)ではなく、電装品(ECU:Electronic Control Unit)単位で実施される試験です。

こちらもエミッション規格はCISPR規格の「CISPR25」として規定されています。

部品試験(CISPR25) 出典:JQA
部品試験(イミュニティ試験) 出典:EXCENTECH

それぞれの代表的な試験項目を挙げておくので、参考にしてください。

 

 

自動車のEMC性能

自動車はひとつの誤動作や事故が人命に多大なる影響を与えるため、従来から「EMC性能」に対する要求は非常に厳しく管理されています。

一方で、自動車内部のECUの数はますます増え続けるとともに、「EV」や「HEV」の普及によって自動車の内部はますます「電磁ノイズ」まみれの状況になってきています。

 

車載機器のエミッション性能

自動車では、ノイズの影響で妨害を与えたり、誤動作することは許されないため、それぞれのECUにはエミッション性能を非常に厳しく規制する必要があります。

では、その厳しさがどれほどなのか?

民生機器のエミッション規格と比較してみましょう。

「エミッション試験」では民生機器(VCCI規格CISPR15電気用品安全法、・・・など)よりも遥かに低いノイズレベルが要求されます。

「VCCI ClassB (3m)」と「CISPR25 Class5」の限度値比較

上のグラフを見てわかる通り、同じ周波数帯域で比較すると「VCCI規格」よりも車載機器のエミッション規格である「CISPR25」の限度値のほうが10dB以上低い値となっています。

しかもこの限度値は、VCCI規格が測定距離「3m」に対して、CISPR25は測定距離が「1m」とさらに近い距離での値です。

測定距離の影響については、以下の記事で解説しているので興味のある方はチェックしてください。

EMI試験における「10m法」と「3m法」の違いを考えてみるEMI試験における「10m法」と「3m法」の違いについて紹介しました。...

いずれにしても、測定距離が近い上にさらに限度値が低いことから、自動車のエミッション規格がどれほど厳しい性能を要求しているか理解できるかと思います。

 

 

車載機器のイミュニティ性能

そうした状況に加えて、「ADAS」や「AD」の普及によってノイズによる誤動作はさらに許されない状況となってきています。

さらに、今後は一般消費者からも「EMC」「電磁波」「電磁波ノイズ」に対する関心が高まってくると考えられます。

エミッション性能と同様に「イミュニティ性能」を民生機器と比較してみます。

民生機器のイミュニティ規格は「IEC61000-4シリーズ」が一般的です。

その中で、今回は「放射イミュニティ試験」で比較してみましょう。

民生機器のイミュニティ規格は「IEC61000-4-3」です。

放射イミュニティ試験【IEC61000-4-3】の概要放射イミュニティ試験「IEC61000-4-3」の概要について紹介しています。...

試験レベルは、最も厳しい「レベル3」において「10V/m」です。

10V/mの試験レベルの厳しさについては、以下の記事で解説しています。

エミッションとイミュニティの関係性 EMCとは「Electro Magnetic Compatibility」の略で、日本語では「電磁環境両立性」を訳さ...

一方で、車載機器の放射イミュニティ規格「ISO11452-2」の「レベル4」においては「100V/m」が照射されます。

単純比較で、10倍の厳しさです。

さらに車載機器の場合、局所的な周波数帯(1.2GHz~1.4GHzと2.4GHz~3.1GHz)ですが、航空監視レーダーを模擬した「レーダーパルス試験」を実施します。

レーダーパルス試験 出典:ノイズ研究所

この試験では、電界強度が「600V/m」と超強力なレーダーパルスを照射してイミュニティ性能を評価します。

瞬間的なレベルですが、民生機器と比較すると「60倍」、デシベル換算すると「35dB以上」のイミュニティ性能が要求されることになります。

非常に厳しいですね。

しかし、これだけイミュニティ試験をしても誤動作がゼロになるわけではありません。

特に自動車は、自動車自身が様々な場所へ移動するため、開発時に想定されていない現象が発生することもあります。

ノイズによるリコール事例 昨今、特に自動車メーカーにおいては車に不具合が見つかるとすぐにリコールを届け出るようになりました。 そして、そ...

 

おわりに

「自動車に求められるEMC性能」の概要について紹介しました。

 

自動車に求められるEMC性能が非常に厳しいことから、車載機器向けの「ノイズ対策」セミナーが各地で開催されています。

この分野では「前野先生」や「久保寺先生」などの「コンサルタント」タイプの方が講師を務めることが多いです。

EMCエンジニアのお仕事 【コンサルタント編】EMCエンジニアが活躍する場所(業種)の紹介です。 「EMCエンジニアの分類」という記事の中で、、EMCに関わる仕事をする技術者全...

 

車載機器のノイズ対策について勉強したい方には「設計技術シリーズ」がおすすめです。

それぞれの章ごとに専門家が解説しているので、じっくり読み込むことでセミナーを受講するのと同程度の知識を習得できます。

 

今回は以上です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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